takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

シャーロキアンのシャーロックホームズ:第6弾『白銀号事件』

イギリスのカレー

競走馬「白銀号」の失踪と、その調教師のジョン・ストレーカー殺害事件を扱った『白銀号事件』のキー・アイテムの一つに、アヘン入りカレー料理が登場します。

今日の日本では、ラーメンと双璧をなす国民食です。

以外かもしれませんが、イギリスでもカレーは国民的な料理です。

日本の様にご飯にかけて食べるというのではありませんが、様々な形でカレー料理があります。

歴史的な観点で考えれば、インドの旧宗主国がイギリスだったので、カレーとイギリスの接点が見えてきます。

その歴史をひも解くと、「16~17世紀に、インドのカレーがヨーロッパの文化に初めて出会う。18世紀に、世界をリードする大英帝国にカレーが浸透。19世紀に、イギリスで発明されたカレーパウダーは、その後日本へ。」

https://housefoods.jp/data/curryhouse/know/world/index_w.html より)と、日本以上に、イギリスではカレーの歴史が古く、国民食として浸透しているようです。

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19世紀末のイギリス

そのカレーに、アヘンを入れたことで、厩舎の寝ずの番であるエディス・バクスターが、昏睡状態に陥り、「白銀号」が誘拐されます。

アヘンと言えば、イギリスと清の間で、1840年から2年にわたり繰り広げられた「阿片戦争」を思い出します。アヘンとは、いわゆる麻薬です。

「アヘンの粉末を売りわたしたのはどこの薬屋ですか?」。(『シャーロック・ホームズの思い出』の『白銀号事件新潮文庫コナン・ドイル著、延原謙訳 P22より)

グレゴリー警部の推理の矛盾点を指摘するシャーロック・ホームズのこのセリフより、『白銀号事件』出版の1892年当時、アヘンは薬屋で販売されていたようです。「阿片戦争」を経て、悪者扱いされていてもおかしくないはずですが、普通に流通していたのが不思議なくらいです。

本書を読んだとき、「アヘン入りカレー料理」とは、奇抜なキー・アイテムだなと思いましたが、当時のイギリスでは、ごく普通に流通しているものの組み合わせだと、少し調べるだけでわかりました。アヘンの匂いを消すためにカレー料理と、それを混ぜたのです。カレーを使った犯罪では、1998年に発生した「和歌山毒物カレー」を思い出します。林眞須美容疑者が、『白銀号事件』を読んでいたかも知れないと夢想すると、『白銀号事件』は、結構怖い話となります。

動物を使った推理小説

他のキー・アイテムと言うか、最重要アイテムは、「白銀号」そのものです。

「現代的なミステリーの最初の作品『モルグ街の殺人』(E=A=ポー)もそうですが、動物をあつかった作品は、ミステリーに多く見受けられます。『黒猫』(ポー)、『かたつむりの島』(パトリシア=ハイスミス)などの怪奇小説もありますし、『恐竜の尾事件』(E=D=ホック)、『レントン館事件』(A=モリスン)などのパズル小説もあります。」(『シャーロック・ホームズの思い出(上)』偕成社コナン・ドイル著、沢田洋二郎他訳 P301より)もちろん、コナン・ドイルの『まだらの紐』も外されない動物が絡んだミステリーです。

実は、「ドイルは、動物にはあまりくわしくないらしく、ときに、まちがいを書いています。(中略)発表当時、スポーツ新聞に競馬界について知らなさすぎると批難された、と、自伝『回想と冒険』のなかで、ドイルはのべています。」(同書 P3021より)とありますが、それを差し引いても、十分に楽しめる動物ミステリーであり、間違いを素直に認めるコナン・ドイルの誠実さが、さらに、『白銀号事件』を輝かせています。

有るべきはずのものがない

ホームズはこの事件の中で聞き込みをする際に「犬の鳴き声が聞えなかった」ことに注目しています。本来有るべきはずのものがない。要するに知らない人が入ってきたら吠えるはずの犬が吠えなかった。犯人は、見ず知らずの人ではなく犬が吠えない人物であると推理したのです。

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