takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

シャーロキアンのシャーロックホームズ:第3弾『赤毛連盟』

シャーロキアンからの人気投票では毎回1位~3位までに入る作品

「赤毛連盟」の画像検索結果

ウィキペディアより)

『まだらの紐』『技師の親指』と、久しぶりにコナン・ドイルシャーロック・ホームズものを立て続けに読むと、ホームズの推理力の素晴らしさ、すなわち、コナン・ドイルの推理の構成力に感心させられます。

その推理を導きだすホームズの依頼者にする質問は、唐突感のある、もっと言えば、不自然なタイミングで行われます。依頼者の話が終わった後で、まとめて質問するような行儀のよいものではありません。

好みの問題かと思いますが、私は、刑事コロンボのように、帰り際にしつこく、「うちのカミさんがね」と、ダメを押す質問の仕方が好きでした。

好きでした。と過去形で語るのは、以下に引用するイギリス人の質問に関する伝統を読んで、ホームズの不自然な質問のタイミングの意味を理解したからです。

「イギリスでは、伝統的にモヤモヤした状況を一気に解決に向かって動かせるような質問が出せる人が『頭がいい』と考えられ、重んじられています」(「最高の結果を引き出す質問力」河出書房新社茂木健一郎著、P18より。太字もそのまま引用)

ホームズは『頭のいい』、すなわち、卓抜した推理力の持ち主なので、依頼者の話の途中でも、既に答えを導き出しおり、その不自然とも思えるタイミングで念押しのための、「一気に解決に向かって動かせるような質問」をしているのでした。

イギリスの質問に関する伝統を、茂木さんから教わったおかげで、ホームズの質問を、今まで以上に楽しむことができるようになりました。

前置きが長くなりましたが、『赤毛連盟』におけるホームズの唐突感のある質問を楽しむために、以下に引用します。

―「その店員は仕事を覚えたいのでふつうの給料の半分でいいといってくれているんですよ」

「そのありがたい若者の名前はなんといいますか?」

「ヴィンセント・スポールディングです。(中略)とにかく、頭はいいですよ、ホームズさん。だからもっといい職に就いて、うちで払っている分の倍はすぐ稼げるはずです。しかし(中略)こっちからよけいなことをいう必要もないでしょう?」

「もちろんです。しかし、世間なみの給料も払わずに人を雇えるとは、ずいぶんラッキーですね。(中略)例の広告に劣らないほど珍しい存在かもしれませんよ」

「いや、あの男には欠点もあるんです。(中略)写真を撮りまくっては、ウサギが巣穴へ逃げるみたいに地下室へ飛び込んで現像するんですよ。(以下、略)」(短編集「シャーロック・ホームズの冒険」の「赤毛連盟」コナン・ドイル著、石田文子訳、角川文庫P51より)

 

 「赤毛連盟」の奇妙な新聞広告から、不思議な出来事に巻き込まれた依頼人のジェイブズ・ウィルソンが、ホームズに一部始終を話している途中で、早速、ヴィンセント・スポールディングに目をつけたホームズは、「例の広告」に劣らないと、「赤毛連盟」の広告を引き合いに出し、さらに、ヴィンセントに関する「地下室へ飛び込んで」という情報を聞き出します。何とも切れ味鋭い「質問力」です。

 他の作品も同様に、ホームズが依頼者に質問をした時点で、事件のある程度の概要が明らかになるのです。

 ある意味、ホームズの質問の唐突感は、事件解決に向けてのトップギアの役割を果たしています。すなわち、コナン・ドイルの作中における「大道具」なのです。

 これからも、もっともっと、ホームズの「唐突感のある質問」を楽しんでいきたいです。