takumi296's diary

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シャーロキアンのシャーロックホームズ:先ずは『まだらの紐』

シャーロックホームズの冒険

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密室殺人は推理小説の基本

推理小説の巨匠の代名詞的な作品を挙げてみると、全て「密室殺人事件」となるのでは、ないでしょうか。
エドガー・アラン・ポーと言えば、「モルグ街の殺人」。
江戸川乱歩ならば、『D坂の殺人事件』。
そして、コナン・ドイルの場合は、『まだらのひも』です。
 小学生の頃、コナン・ドイルシャーロック・ホームズものに熱中。
もちろん、『まだらの紐』も、夢中になって読みました。
そして、今、あらためて読み直すと、もちろん、面白い作品であることは、子どもの頃と同じように変わりありませんでした。

しかし、気になる翻訳箇所、正確に言えば、原題の絶妙さが、邦題をつけることによって、損なわれているのではないかと思える箇所がありました。

事件の鍵

事件の依頼者であるヘレン・ストナーは、探偵のシャーロック・ホームズに、双子の姉・ジュリア・ストナーが謎の死をとげた時のダイイング・メッセージ「まだらの紐」を告げます。このメッセージに対する二人の会話が、ある意味、この物語のクライマックスといっても過言ではないでしょう。以下に引用いたします。

―「なるほど。それで、お姉さんがおっしゃった『ひも』という言葉ですが、それはなにを指すと思われますか?『まだらのひも』でしたね」
「それは、意味のない単なるうわごとかと思いますし、『ひと』といったのかともしれないとも思います。つまり、いまおっしゃったロマ(筆者註、ヒステリックな義理父の唯一の友達であるジプシー一団のこと)のこととかです。よくわかりませんけど、ロマは水玉模様のハンカチを頭にかぶっていることが多いので、そのことを指して、ちょっと変ですけど『まだらの』といったのかなと」

「ホームズは首を横に振った。まるで、その答えは」まちがっているといいたげなようすだ。―(「シャーロック・ホームズの冒険、まだらのひも」コナン・ドイル著、石田文子訳、角川文庫P270より)
邦題から、この密室殺人は、なんらかの「ひも」によってなされたと、本を読む前から想像してしまいます。
密室の中だが、何らかの手段で、ひもを首に巻き付けて、絞殺したのではと。
私たち日本人は、このように謎解きの道筋を邦題から既定されます。
しかし、「ひも」と「ひと」の聞き間違いと思うヘレン・ストナーに対して、その聞き間違い自体が、間違いであると看破してしまうシャーロック・ホームズの「推理の妙」が、この物語のキーポイントと思うと、「ひも」と「ひと」を表す英単語が、何であるか気になります。

原題

原題は、『The Adventure of the Speckled Band』。Bandという単語は、「ひも」という意味と「一団」という意味があります。
英語圏の読者は、本のタイトルをみて、「ひも」によって殺されたのか、ジプシーの「一団」によって殺されたのかは、読み進めないとわからない「コナン・ドイルの仕掛け」となっています。「ひも」と「ひと」の聞き間違いに訳した翻訳者の工夫は見事ですが、やはり、私は、「コナン・ドイルの仕掛け」にはまってみたかったです。
残念な邦題ですが、それを差し引いても、「密室殺人事件」ものの金字塔ともいうべき作品でのシャーロック・ホームズの「推理の妙」は、読んだ人しかわからない奇想天外さになっています。

 

これから暫く連続で「シャーロックホームズ」の物語に関する感想文や紹介を載せます。

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シドニー・バジェット画(1893年)