takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

グッドリッジ社の戦闘機用ブレーキ開発

 今週いっぱい、原発関連記事はお休み致します。会社の仕事その他の関係で資料整理が進んでおりません。まさか、お持ちしている方はいらっしゃらないと思いますが、なるべく早急に雑務を片付けます。

 

 グッドリッジ社の戦闘機用ブレーキ開発に関する内部告発

 

 だいぶ古い話ですが、技術者倫理のテキストにも良く出てくる事例です。1967年6月、軍用航空機の車輪とブレーキの開発を得意としていた米国のグッドリッチ社は、攻撃機A7-Dのブレーキ開発をLTV社から請け負いました。しかし、スケジュールはきつく、開発期間はたった1年でした(通常3~5年、早くて2年)。

 

 設計担当者は設計後、技術者サール ローソンに計画を引き渡します。新しい設計を最も活かすようなフレーキ ライニング(内張り)の材料を探し求めてテス卜は続けられました。しかし、6カ月テストをしても最適な材料は見つかりませんでした。ローソンは設計そのものに欠陥があると確信し、設計担当者に相談します。

 

 しかし、設計者はブレーキの設計は適切だと主張し、さらに別の材料でのテストを提案しました。それでもなお事態は改善されなかったのです。そこでさらに、グッドリッチ社のA7-D計画のマネジャーにも相談しますが、彼も設計担当者と閉じ意見でした。

 

 1968年3月、グッドリッチ社はブレーキのプロトタイプでテストを開始します。ですが、ブレーキの温度上昇が問題で、ローターへ向けて冷却ファンを取りつけるしかありませんでした。ブレーキは、ライニングの温度が上がると制御力が弱くなるのです。しかし、ファンを付けて空冷すると言うのは空軍の仕様に合いません。戦闘機では、振動も激しくブレーキの制御に関してはファンを使って空冷すると言うような制御安全ではなく、本質的な安全が求められます。

 

 このテスト レポートを書く責任者が、テクニカルライターカーミット パンディービーアでした。テストの結果が空軍の仕様に合うように不正に操作されていることに気づいた彼は、不正なデータに基づいたレポートは書けないと感じます。

 

 しかし、正確なレポートを書きたいという彼の願いは経営陣に許可されず、結局グッドリッチ社は不正なデータを使ったレポートを空軍に提出します。

 

 ブレーキの安全性に疑問をもったパンディービーアは、弁護士に相談します。設計に欠陥があると考えていた技術者ローソインとともに、 FBIにコンタクトをとることになります。1968年6月、空軍は再調査のため生のテストデータの提出をクッドリッチ社に求めます。その結果、空軍はフレーキの受け取りを拒絶しました。LTV社はこのことに感銘を受けローソンに新しい職を申し出ます。彼はこれを受けクッドリッチ社を退社、LTV社に移ります。テクニカルライターのパンティービーアも退社を決心し、地方の新聞社で働くことになりました。

 

 日本の場合、内部告発という行為は、告発行為が一種の裏切り行為とみられます。つまり、告発者は裏切り者になってしまいます。今回の米国の事例と比較して、日本では、企業への忠誠心や取引先への連帯感が強く、たとえ不正行為があったとしてもそれを告発する行為は裏切り行為とみられ、黙認することが多くあります。しかし、不正を黙認することは、自分も不正に加担している共犯者でもあり、その企業の商品を信用して購入してくれている消費者を裏切っている行為でもあります。

 

 米国の事例では、告発者は新しい職に就くことができただけではなく、2人とも不正を暴くヒーロー的な存在と社会から認められました。しかし、先週書いた日本のミートホープ食肉偽装事件では、告発者は自分の町・家族から批難され村八分になってしまいました。これは、文化の違いと言って片付けて良い問題ではありません。また、日本はダメでアメリカが良いと言うことでもありません。そもそも、米国の技術者倫理のテキストに頻出すると言うことは、米国でも数少ない事例だと考えることができます。この件に関して他の事例も比較しながら検討してみましょう。