takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

技術者倫理-ミートホープ食肉偽装事件

 この事件は、北海道の食品加工卸会社「ミートホープ」が偽の牛ミンチを出荷していた事実を元役員が農林水産省に告発したことから始まりました。元役員(赤羽喜六氏)は、北海道農政事務所に訴えたのですが、農水省は全くアクションを起さず黙殺されてしまいます。そこで、元役員は、朝日新聞に告発し有名になった事件です。2006年(8年前)の事件ですから記憶されている方も多いと思います。

 

 この事件が起きる4年前の2002年、元工場長の告発により地元紙に食品偽装事件が掲載されています。しかし、この時は社名と地域は報道されず、公的機関も動きませんでした。ミートホープ社の常務だった赤羽喜六氏は行政指導によって自社を改善しようと最初、農林水産省北海道農政事務所と保健所に告発したのですが断られます。そのため、逮捕を覚悟で警察に訴えたのですが、何しろ被害届がありません。警察は被害届がないと捜査・確認が難しく、このような難件に割く人員はいないと受け入れてもらえなかったのです。

 

 2006年4月、赤羽氏は会社の食品偽装を告発するためミートホープ社を退社し、北海道新聞社とNHKにも告発文を送りましたが、ここでも黙殺されてしまいます。

 

 しかし2007年春に事態は一変します。赤羽氏は、北海道のマスコミを諦め朝日新聞に告発しました。朝日新聞は、DNA検査を行い、その結果牛肉100%の肉が豚混じりの偽装であることを立証します。2007年6月20日、朝日新聞紙上で北海道加ト吉加ト吉の連結子会社)が製造した「COOP牛肉コロッケ」から豚肉が検出されたことが報道されました。加ト吉が事実確認を行ったところ、北海道加ト吉には原料の取り扱いミスはなく、ミートホープ社の責任者は加ト吉に「納入している牛肉に豚肉が混ざっていた」と報告したました。同紙の取材にも社長は「故意ではなく、過失」であったと強調していたのです。

 

 ミートホープの社長は、当初故意に食肉を偽装していたことは否定していました。しかし、元社員らが社長自ら指示し関与しているとの報道がされると、取締役であった社長の長男に促され、記者会見で社長が関与を認めます。同社はその後、数々の不正が明らかとなり倒産しました。

 

 会社の倒産により、従業員が職を失うことになりました。ミートホープは地元では大きな会社だったので(最盛期は道内の食品加工卸業界売上第1位。従業員は約100人、グループ全体で500人程度)、地元経済にとっても大きな打撃となり、それにより元役員の家族は、町全体から責められることになってしまいました。奥さんからは「世間の恥だからやめてくれ」と反対され、別居状態になりました。また親類からは「自分だけ偉そうにするな」「一族の恥だ」などと言われ、本人は睡眠導入剤精神安定剤を飲まなければならなくなってしまったのです。

 

 先週のギルベイン ゴールドは、架空の話で学生の教材です。そのため、内部告発した後のことまでは触れられていません。あるいは、その後のことは、学生にディスカッションさせるために映像にしなかったのかも知れません。しかし、ミートホープ事件は実際に発生した事件です。私が所属する技術士会でも機械学会でも内部告発は最後の手段であり、若し告発する場合でも関係する公的機関に行い、マスコミに訴えることは良くないこととされています。しかし、北海道農政事務所と保健所、警察と訴え関係する機関が全く動かなかった場合はどうでしょう。さrに、不正な肉は毎日出荷されているとしたら。この事件は内部告発の行い方に関して深く考えさせられる事件でした。唯一の解答はありませんが、事例として知っておくべきだと思います。

 来週は、内部告発が上手く行った事例について書きます。