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takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

アトミック パワー・解き放たれた力-5

科学技術

 ここで、核兵器そのものについて触れておきます。マンハッタン計画で製造されたのは、原子爆弾です。後に「水爆の父」と呼ばれるエドワード テラーは、マンハッタン計画に参加した時から「より破壊力のある水爆を作るべき」と主張しましたが、その意見は取り入れられませんでした。テラーは、その後マンハッタン計画のリーダーだったオッペンハイマーを厳しく非難するのですが、それにはこの時の遺恨もあったのかもしれません、しかし、そのことには後で触れます。

 核兵器には、基本的に3つの種類があります。そのエネルギーの元になる物質によって、それぞれ名前がつけられています(ウラン、プルトニウム、水素)。3種の爆弾は、構造上大きく異なっています。それを簡単に見ていきましょう。

 

 ウラン爆弾の原料は、精製ウラン235というひじょうに手に入りにくい物質です。前回も少し書きましたが、もう少し詳細に書きましょう。天然に存在するウランは3つの主要な同位体からなります。ウラン238 (99.28% 天然存在比)、ウラン235 (0.71%)、ウラン234 (0.0054%)です。同位体は、化学的性質は全く同じものです。そのため、何かの溶液に溶かして分離するという方法では、ウラン235を分離・精製することができません。ウランを精製する工程には、カルトロン(同位体分離装置)やガス拡散工場、超遠心分離器など、きわめて高度なテクノロジーが必要です。ようするに、中性子数個分の重さの違いを利用して遠心分離機にかけるのです。しかし、この原料を手に入れることができれば、爆弾自体の製造は比較的簡単です。そのため、高校生でも設計できるという伝説までできてしまいました。確かに難しいのは設計ではありません。もっと大きな問題は、純粋なウラン235を手に入れることです。広島を破壊したのは、このウラン爆弾です。

 

 プルトニウム爆弾の原料は、原子炉の副産物のプルトニウム239という比較的手に入りやすい物質です。なるほどたしかに、調達先の原子炉を確保しなければ簡単には手に入りませんが、世界申には数多くの原子炉があります。原子炉から排出された廃棄物を手に入れることができて、なおかつ、放射線被曝しないですむほどの十分な放射化学上のテクニックを知っていれば、プルトニウムを抽出するのは比較的簡単です。言葉は悪いですが「ならず者国家」やテロリスト達にとっては、ウラン235よりもプルトニウム239を手に入れる方が簡単ことでしょう。しかし、その代り、プルトニウムを使った爆弾は爆弾を作ることが著しく大変です。映画などでは、1人の天才科学者がプルトニウム型の原子爆弾を作ったりしますが、そんなことはできません。爆縮という極めて難しい技術が必要です。長崎に投下されたのはこのプルトニウム型爆弾です。

 

 アメリカは、当初構造が簡単なウラン型の爆弾が安上がりで良いと思っていたようです。しかし、作って見るとウラン235の濃縮にコストが掛かり最終的にはプルトニウム型の爆弾の方が安く作れることが分りました。そのため、現在の核保有国はそのほとんどの核兵器プルトニウム型の爆弾で持っています。

 

 最後に、水素爆弾です。これはウラン爆弾やプルトニウム爆弾の10倍~1000倍のエネルギーを放出しますが、製造はもっとも困難です。水素を核融合反応させるためには、ウラン爆弾かプルトニウム爆弾が必要になりますから、まずそのどちらかを製造できなければなりません。福島原発の事故の時、「水素爆発」と言う言葉がでましたが、あれは水素が酸素と反応して瞬間的に燃焼した、つまり爆発したものです。水素が核融合を起こしたのではありません。希にその辺を誤解している人がいらっしゃいますので、注意して下さい。福島の事故の後、3月の終わり頃だったと思いますが、居酒屋でスーツ姿の3人がそのことを話していました。3人共、水素爆発と核融合反応の区別がついていなかったようなので、「失礼ですが」と割り込んで説明したことがあります。原子炉で、核融合反応を起こすことはどんな天才科学者でも不可能です。

 話を戻しましょう。水素爆弾を作るには、原爆の他、水素の希少同位体三重水素)とリチウムを手に入れなければなりません。最後に、そのすべてをまとめて、最初の爆弾の爆発が、爆弾そのものを吹き飛ばしてしまわないうちに、速やかに核融合を誘発するような構造に組み立てます。おそらく、最初からうまくいくことはありません。また、秘密裏に開発し実験を行うことも不可能です。TNT火薬100万トンに匹敵するエネルギーを放出する実験を隠すことはできません。

 

 この3つのタイプの爆弾すべてに共通するのは、強大な破壊力と危険な放射性の残骸です。ウラン爆弾とプルトニウム爆弾は、原子の大部分をきわめて短い時間内に、通常100万分の1秒で、爆発させることが基本条件です。放射能は原子の中心にある小さな原子核の爆発です。ウラン235プルトニウム239は、爆発すると、その断片が、TNT分子の爆発の約2000万倍のエネルギーとともに飛び散ります。ウランの原子の重さはTNT分子とほぼ同じですから、1グラムのウランには、TNT分子2,000万グラム分のエネルギーがあることになります。マンハッタン計画の主要な科学者の1人ロバート サーバーによると、広島に投下された原爆には、約60キログラムのウラン235が使われていました(ウランは75キロ、ウラン235濃縮率80%で60キロ)。もしそのすべてが爆発していたら、放出されるエネルギーは、TNT80万トン、ほぼ1メガトンに相当するものになっていたはずです。ところが、実際に放出されたエネルギーは、たったの1万3,000トンでした。なぜなら、ほとんどのウランは爆発しなかったからです。広島に投下された爆弾は、すべてのウランが核分裂を起こす前に、自らを吹き飛ばしてしまったのです。この原爆の効率は、わずか1.6パーセント程度でした。しかし、それはマンハッタン計画の科学者たちの予想とほぼ同じだったのです。