takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

アトミック パワー・解き放たれた力-9

 マンハッタン計画の中で、最初の困難な課題はウラン235の濃縮でした。実際、ロスアラモス研究所に集まった世界中の優秀な科学者達は様々なアイデアを出し合い実験を繰り返します。

 以前も書きましたが、地中から採掘される天然のウランは、99.3%が爆発しないウラン238です(非核分裂性)。爆弾の原料となるウラン235は、たった0.7%しかありません。言い換えると、天然ウランのほとんどは使えない不純物なのです。その主成分であるウラン238からウラン235を分離することを、「ウラン濃縮」といいます。この濃縮が100%に近ければ、そのウランは「核兵器級」といわれ、除去されたものは「劣化ウラン」といわれます。劣化ウランとは、0.7%のウラン235を取り出した残りのウラン238のことです。

 ウラン濃縮は、きわめて困難です。ウラン235ウラン238は、どちらもウランであり、通常の化学的な方法では分離・選別することができません。ウランの濃縮には、ウラン235の原子がウラン238の原子よりもほんの少し軽いということを利用しなければなりません。しかし、その差はごくわずかで、たった1.3%です。

 最初に成功した方法は、ノーベル賞受賞者のアーネスト ローレンスが発明した「カルトロン」(同位体分離装置)でした。テネシー州のオークリッジにつくられたカルトロンは、広島に投下された原爆に使われたウラン235のほぼすべての濃縮を行いました。

 カルトロンは、ウランを気化させて、C字型の装置内部の磁場の中で加速させるものです。同じスピードで動いているなら、重いほうのウラン238原子はウラン235原子よりも1.3%大きな弧を描き、この経路の終端で、238と235は別々になります。これはひじょうに時間のかかる退屈なやり方ですが、1年を通じてずっと続けると広島に投下した原爆の製造に使用できるだけのウラン235を分離精製することができました。科学者達は、構造が簡単で間違いなく爆発するウラン型原爆の方は実験もせずいきなり本番で使用しました。しかし、これには、ウラン235の濃縮に時間が掛かると言う理由もあったのです。少し話はそれます、核兵器に使用される濃縮ウランは90%を越える濃度に濃縮されますが、原子力発電所で使用される燃料としてのウラン235は、その濃度が3~5%の低濃縮ウランと言います。

 第二次大戦後には、「ガス拡散法」というまったく新しいウラン精製法が使われるようになりました。この方法では、ウランをフッ素と化合させて、摂氏57度という比較的低温で気化する六フッ化ウランをつくります。そのガスを加圧し、多孔質材の隔壁を通過させて、拡散させます。軽いほうの分子つまりウラン235のほうが速く動くので、拡散速度が速くなります。隔壁を一回通過させて上がる精製濃度は、ほんのごくわずかです。その結果、ウラン拡散工場は、何段階もの工程が必要になるため、ひじょうに大きなものになります。しかし、冷戦時代にアメリカの核兵器製造に使われたウランの濃縮は、事実上すべてがガス拡散法で行われました。

 ガス拡散による濃縮に関するもっとも高度な極秘事項の一つは、使用される特殊な多孔質材の材質でした。この素材は、六フッ化ウランのきわめて強い腐食作用に耐えるものでなければなりません。この素材の正体は、いまでは公表されています。一般家庭でも使用されているテフロン(ポリ テトラ フルオロ エチレン-PTFE)です。多くの人は、1938年に米国デュポン社の研究員であったロイ プランケットによって発見されたテフロンが最初に使用されたのは宇宙計画だと誤解しています。しかし、実際には、ウラン拡散工場の基本素材として使われていたのです。アメリカが、何度も核実験を行うことができたのは、テフロンのお陰なのです。私は、料理をしませんが、テフロンでコーティングされたフライパンを見る度に原子爆弾を思い出してしまいます。

 現在のウラン235濃縮法は、遠心分離法ですが、それは明日ご説明します。

 

参考-原子力百科事典