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takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

長崎の造船所で50トンのロータがバラバラになる。(技術史に残る有名な事故)

1970年10月24日、長崎県長崎市造船所(三菱重工)で組立完了した大形タービンの安全および性能確認のため、造船所内で試運転していたところ、直径(最大)1,778mm、胴部長さ3,590mm、重さ50トンのロータが、不純物による脆化と切り欠き効果が原因で突然破裂し、破片が飛散した。この事故で、死者4名、重軽傷者61名を出した。エネルギー需要増大のためタービンの大型化が必要とされ、また、タービン技術において日本メーカが欧米企業との技術提携による開発から独自の技術開発に転換し始めていた時期でもあった。

経過

タービンの大形化・大出力化のなかで、それまで高圧1軸・中圧1軸・低圧2軸だったものを、(図1)に示すように高圧と中圧を併せて1軸・低圧2軸として軸数を減らし、さらに最終段ブレード(翼)の取付け部のリング部材を一体化して大径化することになった。タービンロータは外周にブレードを植え付けた高速回転体である。      組立完了したタービンを、安全と性能の確認のために、定格速度(3,000rpm)の20%増しの速度(3,600rpm)まで回転数を上げる120%過速度試験を行なおうとした。

ところが、速度を上昇させている途中、3,540rpm(定格の118%)で突然ロータが破裂した。破裂前の軸振動は良好で全く異常は認められなかった。試験温度は40~50℃であった(高温高圧の蒸気を流しているのでなく、単に軸を外部からの動力で回転させて試験を行なっていた)。破裂はロータ中心部から4等分の形で割れ(図2)、回転接線方向に向って4方向に飛散した(図3)

回転試験場は長崎湾に面し、一方は海、他方は山になっているが、四散した重さが9トンある破片の1つ(図3中で“S”と表示)は、空中を海に向けて880m飛び、重さが11トンの他の破片(図3中で“M” と表示)は空中を山に向って飛び、1.5km先で標高200mの地点に落下した。他の1片(図3中で“W” と表示)は、試験場のある工場の床に平行に進み、多くの人員と機器に損傷を与えて停止した。最後の1片(図3中で“H” と表示)は、試験場の床に突き刺さる形で停止した。

原因

ロータ破損の原因および破壊に至るメカニズムは以下のとおりであった(写真1、図4)

  1. 材料中に含まれる不純物が造塊時に中心部に凝縮されるとともに、中心部には柱状晶の間隙に半径方向に小さな空孔(ミクロポロシティという)が発生した。
  2.  鍛造によってこれらの偏析を解消し空孔を消滅させることができなかった上に、最終熱処理時では中心付近の冷却時の温度低下速度が遅く、中心部に脆性を与えていた。
  3. ロータの大径化に伴い、中心付近に発生する接線応力が従来のものに比べて大きくなった。
  4.  高速回転による大きな接線力がその限界をこえたとき、脆性破壊が発生し、次いで高応力の延性破壊が生じ、ロータは破裂した。
  5. 技術管理的には、材料の脆化の事実を把握していなかったこと。
  6. ロータを超音波探傷法を用いて、内部欠陥の存在を測定していた。実際の検査で検出されたものは全て小さなエコーの存在のみであった(許容欠陥の大きさ5mm未満)。当時、小さいミクロポロシティが集合することで6mmの欠陥と同じ破壊強度への影響(集合効果)があることは認識されていなかった。

対処

技術的には、まず何が起こったかの現況把握、次に回収された破片の破損状況、材料特性および飛散状況などのデータに基づいた原因および破損メカニズムの究明が実施された。死傷した従業員に対しては、補償・職場復帰など手厚く対応された。社会に対しては情報の一元化を図って不正確な情報が流布しないようにした。また、顧客に対しては、新たな製鋼法による代替品のロータを作って2ヶ月後の納期を守り、顧客への迷惑を最小限に止めた。

対策

本事故の原因は、ロータ中心部の延性が異常に低いことであり、それをもたらすのが含有不純物と偏析による脆化の素地生成である。したがってこれらを取り除くための新しい技術の採用が行なわれた。すなわち、製鋼法として従来おこなっていたけい素(Si)脱酸真空造塊法から、真空カーボン(C)脱酸造塊法に変更した。また、材料の素地を作る製鋼法の改善の他に、熱処理法の改善、および超音波探傷法などの検査法の改善も行なわれた。

また、破裂に続く破片の飛散により多数の死傷者を出したことに鑑み、回転試験装置も改めた。すなわち、試験装置をピット(地中に掘った開口穴)に埋め、回転部分に重厚な蓋を設け、たとえ破裂が起こっても破片が飛散しない構造とした。

 

//// ここまでは、失敗知識データベースから省略・加筆して転載しました。

 

42年前の話ですが、この頃の日本はまだ、独自の技術で大型タービンを作ることはできませんでした。60年代終わりから、70年代初期にかけて、アメリカのウェスティングハウス、ゼネラルエレクトリック、ヨーロッパのジーメンスなどから協力提供を離れ独自技術に転換しようとしていた矢先の事故でした。死者4名、負傷者61名ですから大変な大事故です。1メートルを越える大きさの鉄板が、コンクリートの床に突き刺さる速度で飛んでくるわけですから人に当たった場合ひとたまりもありません。飛散した方向と作業をしていた位置だけがその人の運命を決めたことになります。

私達製造に携わる人間は、「4M変更する時は注意しろ」と言います。4つのMつまり、Man(作業者)、Machine(機械設備・治工具)、Material(部品・材料)、Method(作業方法)の4つです。通常、「M」は1度に1つしか変更しません。長崎の事故では、アメリカの技術から日本の技術へ4つのMが全て変更になった訳ですから、最大限に注意しなければならなかったのでしょう。残念ながら、4Mの変更の重要性も浸透していなかった頃なのです。また、4つの「M」の中でもMaterialつまり、部品・材料の変更は特に問題が起きやすい重要な変更です。現在でも、材料の変更はよほどの理由がない限り設計審査で却下になります。私が携わっている医療機器の生産では、薬事関係の認可のこともあり、材料の変更は通常ありません。無理矢理、変更すると認可が下りるまで1年以上掛かります。

ただし、この事故の原因を徹底調査したことにより日本のロータ・タービン技術は飛躍的に向上し数年後には世界一となります(72年6月にも和歌山の事故がありますけど)。大変残念なことですが、私達人間は、成功よりも失敗から多くのことを学ぶようです。

ところで、金属を熱して圧力を加え思ったとおりの形にする加工技術の1つに上記の「鍛造」があります。この技術では、元の材料の中にある僅かな不純物が様々な悪影響を及ぼします。長崎の事故はまさにそれです。しかし、この時の純度というのは、金属加工と無縁な方には想像できないほどのオーダーです。

例えば、純度 と 99.981重量%、 99.993重量%(その差0.012%)の2種類の純鉄を用いて,オーステナイト域熱間鍛造によってえられる加工組織に及ぼす純度と冷却速度の影響について調査します。低純度鉄(99.981%の方)においては,いずれの冷却速度の場合でも等軸晶組織が形成されておりその結晶粒サイズは冷却速度が小さいほど大きくなります。また,形成された等軸晶組織の面方位はランダムになってしまうのです。一方,高純度鉄(99.991%の方)では,いずれの冷却速度の場合でも鍛造方向と平行に成長します。

現在の日本の技術では、不純物の量を100万分の1以下のオーダーで管理しています(つまり、0.0001%)。

今回は、少し専門的になりすぎました。明日は、また、技術者倫理の話に戻ります。