takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

シャーロキアンのシャーロックホームズ:第11回『緋色の研究』

『緋色の研究』(コナン・ドイル著、延原謙訳 新潮社)は、シャーロックホームズ物語の第一作です。

この物語の好きなところは、いくつかありますが、「タイトルの秀逸さ」を一番にあげます。(原題は『A Study in Scarlet』シャーロック・ホームズクラブの小林司東山あかねは、これを『緋色の習作』と訳しています。)

『緋色の研究』は、「相当自信のあるこの作が世に出たのに反響は全くなかった。それでドイルは失望して、もうホームズ物は書くまいと思っていた」。(同書、P239より)このように、最初は振るいませんでした。

私は、「タイトルの秀逸さ」を言及しましたが、読み始めても、このタイトルの意味がわかりませんでした。一方、この作品の後に、計60のホームズものが生まれました。この『緋色の研究』を除いた作品のタイトルは事件と関係するトリック、登場人物、場所等からの引用となっています。

今まで、紹介してきた作品でも、『まだらの紐』『技師の親指』『ぶな屋敷』等々がそれらの例で、タイトルから、読書前に、ある程度まで具体的なイメージができあがるようになっています。

『緋色の研究』という抽象的なタイトルであるが故に、「この作が世に出たのに反響は全くなかった」という結果を生んだのではないかと、私は想像します。

さらに、『緋色の研究』(1887年発表)は、『緋文字(ひもんじ)』(ナサニエル・ホーソーン作、1850年発表)の影響を受けて、タイトルをつけたのではないだろうかと、想像を膨らませます。

『緋文字』は、ピューリタン社会において姦通罪を犯した主人公の女性が緋色のA(adulteress、姦通罪の意)を服につけさせられたという物語のストーリーから、タイトルを引用しています。このように、『緋文字』は、当時の宗教的な社会背景にて、生まれた作品です。

故に、モルモン教徒の戒律を題材にとりいれた『緋色の研究』も宗教的な社会背景にて、生まれた作品であり、『緋文字』の影響を受けたともいえます。

しかし、『緋色の研究』のタイトルからは、『緋文字』のタイトルのような象徴的なイメージが浮かびません。『緋色の研究』を読み進めます。すると、「生まれてはじめてというこのおもしろい事件を、むなしく逸したかもしれないんだからね。そう、緋色の研究とうやつをねえ。いささか美術的な表現をつかったっていいだろう?人生という無色の糸桛(いとかせ)には、殺人というまっ赤な糸がまざって巻きこまれている。それを解きほぐして分離し、(中略)明るみにさらけだして見せるのが、僕らの任務なんだ」。(同書、P73より)ホームズがワトソンに語りかけます。「殺人というまっ赤な糸」が、「緋色」とわかります。つまり、『緋色の研究』とは、「(赤い血をイメージする)殺人の研究」なのです。では、『赤の研究』でも、『血色の研究』というタイトルでもよいかと思います。

しかし、『緋文字』の影響により『緋色の研究』とタイトルをつけることによって、宗教的にも奥深い、かつ、美術用語的にも気障(キザ)な硬軟あわせた「タイトルの秀逸さ」が生まれたのです

シャーロキアンのシャーロックホームズ:第4段『緑柱石の宝冠』

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私は、角川文庫版『エメラルドの宝冠』にて、この作品を読みましたが、他出版社のタイトル訳では、聞き慣れない石の名前・緑柱石が登場します。

その石は、「エメラルドのことです。緑色の濃さでいえば、エメラルドはふかい緑色、緑柱石は少し淡い、のちがいで成分は同じです」。(『シャーロック・ホームズの冒険コナン・ドイル著、平賀悦子 他訳、偕成社 P369より)


 タイトルを一つとっても、その時代時代の空気に触れることができます。この行為は、小説を読む楽しみの一つである、「現実逃避」とでも言うべきでしょうか、自分の知らない世界に誘われて、我を忘れてどっぷりと浸ってしまうことに通じます。この『緑柱石の宝冠』では、19世紀後半のロンドンの大銀行家でさえも、触れることの出来ない―国家の有力者のやぶさかならぬ借金の担保代わりに預かることとなるのですが―21世紀のダイアモンドに匹敵する貴重な宝冠を巡って、当時の大銀行家の世界を垣間見ることが出来ます。


 さて、物語はいつものように、ホームズの部屋で、その主とワトソンの会話から始まります。雪の道なので、ホームズものの定番である馬車でなく、奇妙な歩きぶりで大銀行家のアレキサンダー・ホールダーが登場します。この富裕層は、普段は馬車―感覚的には、現在で言えばタクシーでしょう―で移動するので、慣れない雪道に「必死で走りながら、ときどきぴょんぴょんと飛び跳ねている(中略)しかも、走りながら両手をあげたりおろしたり、頭を振ったり、顔をめちゃくちゃにゆがめたり」(『シャーロック・ホームズの冒険』の『エメラルドの宝冠』角川文庫、コナン・ドイル著、石田文子訳 P370より)と悪戦苦闘をします。そして、何とかホームズを訪問します。奇妙な歩きの余韻を引きずり、訪問後も気が動転したままです。

 
 しかし、ホームズの落ち着き払った会話にて、冷静さを取り戻します。そこで、「緑柱石の宝冠」の一部が、盗難にあい、その犯人が放蕩息子のアーサーだと、理路整然と説明します。この事件の発端におけるホールダーの服装の描写―地味だが上等な服装をしていて、黒いフロックコートに真新しいシルクハット、こぎれいな茶色の深靴、仕立てのいいパールグレーのズボンといったいでたちだ。(同書 P370より)―にて、19世紀のロンドン上流社会に触れることができます。一方で、社会的な地位を得ている登場人物が、放蕩息子に翻弄されるという、今日の日本社会でもありがちな構成となっています。19世紀末のロンドンと今の日本が、繋がったような錯覚をおこしそうです。

 その繋がりを断つのは、父に犯人と疑われたアーサーの行為を、「息子さんは騎士道精神にのっとって」(同書 P403より)と称えるホームズのセリフです。現代で考えると時代かかったセリフで、日本では、武士道精神となるのでしょう。ありがちな構成の物語も、騎士道精神に言及するホームズのセリフで、私は、一気に19世紀後半のイギリスの規範の世界に引き込まれました。アーサーにとっては、汚名返上の最大の誉め言葉となり、私とっても、大銀行家を戒める舌鋒鋭い金言となりました。

 最後に、この物語のこぼれ話を一題。「エメラルドが三十九個もついた宝冠を預けたのは、誰だろう。皇族の一人、プリンス・オブ・ウェールズ(皇太子)だという説もある」(『シャーロキアンは眠れない』飛鳥新社小林司東山あかね著、P219いり)当時の緑柱石は、今のダイアモンドより価値があったと想像したいです。そうすれば、ホームズの活躍がもっとまぶしくなります。

ちなみに、この依頼者ですが、シャーロックホームズ研究家の間では、後のエドワード7世が最有力です。

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ウィキペディアより「エドワード7世

『あなたの体は9割が細菌』って本当ですか?

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売れているみたいです。

内容は専門的ですが、文章は平易です。

河出書房新社のサイトには、著者アランナ コリンの紹介があります。

インペリアル・カレッジ・ロンドンで学士号と修士号を取得し、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンおよびロンドン動物学協会で進化生物学の博士号を取得。『サンデー・タイムズ・マガジン』誌などに寄稿している。

博士号を持った、科学ジャーナリストと言ったところでしょうか?

日本には、すくないですね。

この本、話としては面白いのですが、この体細胞と体内細菌数の割合には無理があります。

一昔前に流行った、数値です。

要するに、体内細菌の数は、体細胞の10倍程度、そうすると比率で言えば9割程度が細菌と言うことになります。

では、どうやって人の体の細胞数を数えるのでしょうか?

また、体の中の細菌数はどうやって数えるのでしょうか?

 

実は、体細胞の数を数えるのはとても難しいのです。

そのため、以下のように推定します。

人の体細胞で一番多いのは何でしょうか?

答えは赤血球です。全身の細胞に酸素を運ぶ必要があります。ですから、数は当然多くなります。

その数は血液1μℓあたり成人男性で420-554万個、成人女性で384-488万個程度です。
これは、献血の前に測定器で測定してくれます。あまり少ないと献血できません。
私は、よく献血に行きますが、大体460万個とでます。繰り返しますが、1μℓ中にこの数です。総数ではありません。血液の体積の50%は、赤血球です。

標準的な体格の成人なら、およそ3.5-5リットルの血液があります。そうなると、体内の赤血球の総数はおよそ20兆個になります。
実は、体細胞の数は、この赤血球との比率から推定されています。

その比率から計算すると、体細胞の数は、40兆~70兆と推定されています。倍近い開きがありますが、実際に体重40キロの痩せたおじさんと、体重120キロの太ったおじさんでは、それくら細胞数も異なるかもしれません(肥満細胞はそれ自体大きいのですが)。

 

また、体内の細菌数はどうやって数えるのでしょうか?

体内の最近は、ほとんど消化器官の中にいます。そもそも、他の器官にいたら病気で死んでしまいます(敗血症)。そこで、1グラムの便の中にどれくらいの細菌がいるのかを調べます。

そこから推定された、最も信頼性の高い数値は、体内細菌数40兆程度と言うものでした(胃の中のピロリ菌も数えます)。

ですから、体細胞と体内細菌の数は概ね等しいと考えるのが妥当なようです。

現在、この世界の専門家で、9割が細菌説を信じている人はほとんどいません。

逆に「ゴロが良いから、都市伝説として流行ったのだ」と言う方までいます。

以下、ナショナルジオグラフィックから、体内細菌の電子顕微鏡写真です。

あなたの体の中もこんな感じです。外見の美醜とは関係ありません。

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とは言え、この本、体内細菌の重要性を伝える意味では、良い本です。

売るためのタイトルは、この程度なら方便なのでしょう。

 

ちなみに、このような数値の間違いは随所に見られます、科学の良いところは、それを自己修正できるところにあります。

上記と関係ありませんが、皆さん、マグロの泳ぐ速度ご存知ですか?

少し前は時速80キロとか、言われていました。これも完全な間違いです。

15キロ~20キロが限界です。

そもそも、空気の780倍の密度の中でそんなに早く移動できるはずはありません。

natgeo.nikkeibp.co.jp

 

 

宇宙大作戦≒スタートレック

前回、書いた通り『スターウォーズ』は大好きな作品ですし、名作です。

まさにスペースオペラ、日本の『宇宙戦艦ヤマト』とは全く異なります。

話はそれますが、『ヤマト』の劇場版をざっと見て下さい。

劇場アニメ映画

   (ちなみに、スターウォーズの1作目は、1977年公開です。)  

上記の他に『宇宙戦艦ヤマト2199』というテレビアニメ・シリーズ『宇宙戦艦ヤマト』の総集編もありますが、これはまあ良いとします。
第一章、2012年4月7日公開。
第二章、6月30日公開。
第三章、10月13日公開。
第四章、2013年1月12日公開。
第五章、4月13日公開。
第六章、6月15日公開。
第七章、8月24日公開。

 

「さらば」 と言ってから「永遠に」とだめ押しして、「完結編」そして「復活」ですからね~。

個人的には、『さらば』で止めておけば良かったと思います。

関係ありませんが、ターミネーターも『3』までですね。

お金になると思うと、ファンの気持ちを無視して作りまくるのは良くないのです、作るなら、常に前作を超えるような作品を作って欲しいものです。

 

話を戻しましょう。その『スターウォーズ』ですが、ミレニアムファルコンの速度が遅すぎると書きました。本当に遅すぎます。光の速さの1.5倍程度では、銀河帝国を自在に移動するのは不可能です。仮に銀河の1/100をその領域としても、1000光年の移動が必要です。端から端まで動くのに630年も掛かったら帝国を築くことはできません。

では、どれくらいの速度が必要でしょうか?

スターウォーズ』とならぶ宇宙ファンタジー『スタートレック』を見てみましょう。

ちなみに、TVシリーズでは『宇宙大作戦』と呼びます(日本の場合)。『スタートレック』は劇場版の題名です。

スタートレックに出てくる「USSエンタープライズ号」は、シリーズ毎に性能もスタイルも変化します。その速度は、旧表示でワープ5~ワープ12です。

仮にワープ2の場合、数字の部分を3乗するので、光速の8倍。ワープ3なら光速の27倍です。ワープ10なら実に光速の1000倍です。これなら、大航海時代の帆船が太平洋を冒険する感覚で地球近傍の銀河系内を探索できるでしょう。1000光年の移動なら1年です。

スタートレックの最初の作品は1966年に公開されています。当然スターウォーズの制作メンバーは、スタートレックを知っているはずですから、どうして参考にしなかったのでしょう。宇宙の広さに考えが及ばなかったのでしょうか?

 

次回から数回に分けて「スタートレック」のことをご紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

スターウォーズは大好きなんだけど

告知

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開催時間:10時~16時

部門はといません。

受講料は15,000円です。

当日の受講後も完成するまで添削します。

詳しくは、

技術士二次試験の対策なら 匠習作技術士事務所 - 技術士二次試験対策講座

をご覧下さい。

 

ここから、今日のブログです。

スターウォーズは、これまでと少し路線が変わったようですが面白い映画です。笑いと、スリルの両方が楽しめるよくできた映画と言って良いでしょう。

この映画に何度も出てくるハン ソロ船長の宇宙船「ミレニアムファルコン」は、ソロ船長曰く「銀河最速」の宇宙船であり、どんな追っ手も振り切って逃げる能力を持っています。

もっとも、普段の通常航法ではそれほど早くありません。スターデストロイヤーを振り切れず、ルーク スカイウォーカーに「ちっとも早くないじゃないか」と叱咤されています。

映画の中でハン ソロが何度も口にする「光速の1.5倍」という早さは強力なイオンエンジン(探索機ハヤブサに搭載されています)を使った、ハイパードライブ航行の時にでる速度です。光の速さの1.5倍、秒速45キロメートル。これまでに人類が作った乗り物で一番速いのは太陽系から脱出する予定のボイジャーだと思いますが、それでも秒速20キロメートルに過ぎません。ミレニアムファルコンの2万分の1以下です。ウサイン ボルトが秒速10メートルですから、その2万分の1では秒速0.5ミリです。カメより遅いことは間違いありません。

ここでは、イオンエンジンで光速を超えるかどうかは、問いません(超えることはありませんが)。私が気にしているのは、光速の1.5倍の速度で恒星間旅行ができるかどうかなんです。

地球から最も近い恒星まで4.3光年、要するに光の速さで4.3年かかります。4年4ヶ月です。これがミレニアム ファルコンなら2年10ヶ月で到着するわけです。この時間、少し長いと思いませんか?

地球から100光年(ミレニアムファルコンなら66年で到着できる)距離内におよそ1000個の恒星系があります(高度な文明社会がないことは分っています)。銀河系の大きさは長径10万光年、短径8万光年、厚さは最大で15,000光年ぐらいです。その中の半径100光年の世界では「銀河帝国」とか「銀河共和国」などと言えないかもしれません。仮に、四国程度の大きさで「地球共和国」と名乗るような感じです。

しかし、その半径100光年の世界でも移動時間は長すぎです(光速で動く宇宙船の中では時間の流れが遅くなりますがそこは無視しています)。

宇宙戦艦ヤマトは、17万光年離れたイスカンダルを1年で往復しました。(光速の34万倍)

銀河鉄道スリーナインは1年で。200万光年離れたアンドロメダ星雲に到着します。(光速の200万倍)

なんで、スターウォーズは、光速の1.5倍で「銀河最速」にしたのでしょう?

私は、そこが不満です。

次回は、私の大好きな「スタートレック」のエンタープライズ号について語ります。

 

『読書』という体験

昨年暮れから今年にかけて、2冊の本を取り上げてここで書きました。

プルーストとイカ』、『意識をめぐる冒険』です。

私は、本を読むのは割と早い方です。普通の新書なら2時間くらいでしょう。40歳を過ぎてから、小説はほとんど読まなくなりましたが、夏目漱石の『明暗』を数年前に読み返した時、日曜日を使って4時間くらいでした。

と言って、「速読」を学んだりマスターしたりという訳ではありません。「速読」そのものには全く興味がありません。正直、眉唾ものだと思っています。

早く読むのは簡単です。アウトプットのために答えを探すつもりで読むと早く読めます。この本から「〇〇を見つける」と決めて読めば、関係無いところは目で追うだけですから、早く読めるのです。私はこれを「探し読み」と言っています。別に悪いことではありません。本は、情報をインクで紙に印刷したものですから、その情報を探して、自分の都合で使うのですから理に適っています。必要もないのに全て丹念に読む方が理屈にあいません。本を読むために生きているのではありません。

しかし、『プルーストとイカ』、『意識をめぐる冒険』のように、情報を仕入れるだけではない本もあります。作者の話をじっくり聴いて、質問をまとめノートを取りながら読み進める本は、読む終るまで2~3日あるいは4~5日かかります(1日あたり3時間くらい)。これは、私にとって作者との対談みたいなものです。ですから貴重な『体験』です。

時々、「本で読んだ知識なんて全く役に立たない、実際に体験しないとダメだ」なんて仰る方がいます。それは、一部正しいと思います。そんな読み方もあるからです。飛ぶようにページを捲って、書いてあることを「なるほどね~」と読めば、知識の吸収だけで終るでしょう。小説なら、「あ~面白かった」で終るでしょう。

しかし、そうではないまさに「体験」と言うに相応しい読書もあります。毎年、年初の思います、「今年はどんな体験ができるだろうか?」と。

年に数回、池袋のジュンク堂を上から下まで降りながら、「体験」できる本との出会いを求めています。素晴しい体験のときは、皆さんにもお知らせ致します。

 

『プルーストとイカ』

今年の正月は、ほんとに良い天気に恵まれました。

と言って、別にどこへも出かけなかった私ですが、近所のスーパー銭湯にはぶらりと行きました(2日の土曜日)。後は、年賀状を投函するために、少し遠回りして散歩をしたぐらいです。

 

さて、早く読めなかったことを後悔するぐらい面白い本だった「プルーストとイカ」です。先ずは、本の中で詳細に書かれている「ディスレクシアDyslexia)」についてご説明しましょう。

 

ディスレクシアとは、学習障害の一種で、知的能力及び一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障害です。顕著な例では数字の「7」と「しち」を同一のものとして理解が出来なかったり、文字がひっくり返って記憶されたりして正確に覚えられない、など様々な例があります。

諸外国によって事情は異なりますが、アメリカでは、全体の10~20%が程度の差はあれディスレクシアであると言われています(いくらなんでも多すぎるような気もします)。

音声言語の場合は、ウェルニッケ野とブローカ野によって処理されます。この部位は人類百万年の進化の過程で徐々に発達してきた領域で、猿人段階ですでにブローカー野にあたるふくらみが生まれていたことが分っています。例えば、現在のニホンサルなども叫び声のような吠え方で、危険を知らせる行動を取りますから、猿人や原人が音声言語に近い合図を発していたとしても別に不思議ではないでしょう。

人間の場合、耳からはいった刺激は聴覚野で特徴がとりだされ、言語を処理する専門領域であるウェルニッケ野とブローカ野を介して前頭葉に送られ、意味が理解されます。ここまでできるようになるまでに、100万年の時間を必要としたのです。

一方、文字言語はどうでしょう。文字言語の場合、目からはいった刺激は視覚野で形態情報を抽出された後、隣接する39野(角回)と40野で音声イメージに変換されます。その後ブローカー野から前頭葉に送られることがわかっています。要するに文字言語は一度「音」に変換されなければ理解されません。ディスクレシアの人はこの変換部分でつまづくらしいのです。何しろ、文字が考え出されてから1万年以下の歴史しかありません。ですから、人間の脳は文字を処理する専門の領域を進化させていないのです。従って、文字の読み書きは個人が努力して習得しなければなりません。子供の頃の読書がいかに大切なことなのか、これで分ると思います。

文字の形体をを音声に変換する39野・40野とはどのような領域でしょうか。39野と40野は視覚野・聴覚野・運動感覚野・体性感覚野に囲まれており、こうした諸領域を統合する働きをしています。おそらく、石器等を製作し使いこなすために発達した領域で、文字処理は石器のための領域を転用しておこなわれていた訳です。

現在の「ヒト科ホモサピエンス(私たちのこと)」には、文字を読み書きするための中枢領域がありません。あと数十万年すればできるかもしれませんが、とにかく今はありません。そのため、私たちは、脳の他の領域を使って代替えしています。その使い方は、幼少期の読書体験によってトレーニングされるため、人によって異なるということが分ってきました。ディスレクシアの人々は通常の人々とは異なる脳の領域を使っており、そのためスムーズな文字の読み書きが行えないと考えられています。

 

プルーストとイカ』の冒頭部分でプルーストの言葉が引用されています。

「読書の神髄は、孤独のただなかにあってもコミュニケーションを実らせることのできる奇跡にあると思う」

明日に続きます。

 

 

 

意識をめぐる冒険

この本は、343頁全10章で構成されています。

そのうち、1・2章は子供の頃からの自分の生い立ちやフランシス クリックとの出会い等自伝的な話になっています。クリストフ コッホが30年前に「意識」の研究を始めるころは、「意識」の研究なんてキワモノ扱いの状態だったようです。研究の方法自体も全く確立されておらず、どうすれば哲学や心理学とは違う科学の土俵に「意識」を乗せることができるのか?そのスタート地点の話を興味深く読むことができます。

3章からは「意識」の謎について語り始めます。脳内で生じている物理化学反応と、その脳が生み出す意識という現象のあいだには大きなギャップがあります。これは埋められないギャップだと考えている研究者も多いようですが、本の作者であるクリストフ コッホは、そう考えません。さらに哲学者や社会学者が科学の弱点を指摘する事実を述べながら、それでも「科学が最も信頼のおける方法である」と明確に主張しています。もちろん、私もそう思います。

4章の冒頭はこんな書き出しで始まります。

専門知識をもたない人が、原子物理学や腎臓透析について持論を振りまわしても、誰も相手にしてくれないのは当たり前だ。ところが、意識の話となると、関連する重要な脳科学の知見をほとんど知りもしないのに、自説を好き勝手に展開しても許されるという雰囲気がある。しかし、そんな適当な言説から意識について学べることなどほとんどない。

脳と意識に関する心理学、神経科学、医学の知識は、日々膨大に蓄積されている。脳科学者や認知科学の研究者は、世界中に5万人以上もあり、毎年、何千報もの新たな論文が発表され、過去の知見の上に積み上げられている。

 (日本では3・11以降、原子力発電の原理を知らない人でも、原子物理学の話をしていましたけど)

5章以降の後半では、コッホ自身の研究成果が語られています。コッホの推測では、おそらく「脳の前方にある前頭前皮質と後方の高次元視覚領域を互いに長い軸索でつないでいるピラミダル・ニューロンの集団ネットワークが意識の内容を担っている」とのことです。ようするに、意識を発生させる神経細胞はないのですが、いくつかの神経細胞が繋がって、相互作用することで意識が発生しているのではないかと考えられている訳です。
これは、とても面白い考え方ですね。

全体的にとても読みやすい本で、それほどの専門知識は必要としません。科学に興味のある高校生なら読めると思います。私は、2日間の通勤電車の中で読み終えました。正味、3時間くらいでしょう。

一つ注意して頂きたいのは、まだ、正解は分らないということです。この本を読み終えても「意識」が何であるのかは、分りません。ただ、最先端ではこんな研究が行われて、現在ここまで解明されたということだけが分ります。もちろん、そこがエキサイティングなところです。

 

 

先ずは、『意識をめぐる冒険』から

著者のクリストフ コッホについて、Wikipediaから紹介します。(一部略)

 

1956年、アメリカに赴任中のドイツ人外交官の息子として、ミズーリカンザス・シティで生まれる。その後、外交官である父親の転勤に連れられる形で様々な国を移動。オランダのアムステルダム、ドイツのボン、モロッコのラバト、カナダのオタワと引越しを繰り返しながら幼少時代をすごす。1974年にモロッコの高等学校リセ・デカルトを卒業し、フランス国のバカロレアを取得。1974年からドイツのテュービンゲン大学大学で、物理学と哲学を学び始め、1980年に同校で修士号(物理学)を取得。1982年にはドイツのマックス・プランク研究所で PhD(物理学)を取得。その後アメリカに渡り、1986年まで四年間、MITの人工知能研究所および脳・認知科学部門ポスドク。1986年よりカリフォルニア工科大学で教授。2011年3月よりアレン脳科学研究所の Chief Scientific Officer となり、活動の基盤をカリフォルニア工科大学からアレン脳科学研究所に移した。

1990年頃より、意識の問題は神経科学が扱うべき問題だと主張している。フランシス・クリックとの共同研究が知られている。

    コッホはアップルコンピュータが販売しているマッキントッシュの熱烈なファン(マカー)で、ホームページでも「マックは20世紀中で最も美しく優雅な人工物だ」と絶賛している。自身の右肩にはアップル社のロゴマークをタトゥーまでしているほど。しかし彼の妻はタトゥーには反対の立場であるため、旅先で断りなくコッソリ入れてきたらしい。ちなみに彼の息子はタトゥーを入れることには賛成だが、企業のロゴを彫ることはあまり格好いいことだとは考えていないとのこと。
    コッホは色好きでも知られている。自身のホームページでも "I love colour(僕は色を愛してる)"と書いているように、実際、服装、髪、研究室のインテリアなどにおいてしばしば彩度の高い派手な色を用いている。髪の毛をオレンジ色や赤色に染めていた時期もある。(下の写真は2008年)

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  今回の『意識をめぐる冒険』は、10年前の2006年に発売された『意識の探求』(上下)・岩波書店の続きに近いと思いますが、今回の方が文章も熟れてとても読みやすくなっています。翻訳者の土谷氏は、コッホの弟子であり、一時期共同研究者でもあったかたです。前回も今回もいわゆる「超訳」ということで翻訳されたようですが、本来翻訳とは、英語の単語を辞書的に日本語にするのではなく、原作者の主張を考えそれを上手く伝えるのが役目です。「超訳」は、流行言葉のようなものですが、明治時代の翻訳は大抵「超訳」です。

 

本題に入りましょう。

私は、前著の『意識の探求』(2006年)と、さらにその前の『DNAに魂はあるか』(フランシス クリック著・1995年)の頃から、「意識とは何か」について非常に興味がありました。

意識って不思議ですよね?

脳は、脂肪とタンパク質という物質でできています(人間の身体はみんなそうですけど)。重さは1,300~1,600グラム、大雑把に言って体重の2%です。

しかし、重さとして2%程度ですが、血液の循環量は心拍出量の15%、酸素の消費量は全身の20%、グルコースブドウ糖)の消費量は全身の25%と、いずれも質量に対して非常に多いのが特徴です。

やり方が分らないから誰も言いませんが、一番のダイエットは頭をいっぱい使うことなんです。なにしろ、身体に入った糖分の25%は脳が使っているのです。

意識は、この大飯食らいの脳から生まれていると考えるのが妥当です。

「魂」などと言う良く分らないものが身体の中にこっそり隠れているのではありません。どう考えても脳の中で常に発生している電気信号と化学物質のやり取りによって「意識」は発生しているのです。言い換えると、物質の反応が非物質である「意識」という現象を作り出しているのです。

 

なんて書いていると、本の紹介に入れません。

すみません、明日、もう一度この本の紹介でブログを書きます。

今日はプロローグで勘弁して下さい。

バーガンさんすみません。

 

 

 

 

寺沢俊哉さんの新著紹介『人材育成』:中央経済社

何かとお世話になっている、日本生産性本部

主席コンサルタントの「Drテラ」こと寺沢俊哉さんの新刊が出ました。

昨日帰宅したら、自宅に届いてました、ありがとうございます。

以下、は号外メールからのコピーです。

とても読みやすい本ですが、人材育成のノウハウが詰まっています。

部下の教育や育成で悩んでいるかたはぜひどうぞ。

 

 

「経営コンサルティングノウハウ7
 
人材育成
 ~心をつかんで場をいかす!
  自走する人材を育てる
  対話型リーダーシップの極意」

が出版されました。
 

写真 書店
 

パチパチパチ(^_^)/

くわしいご案内はこちらから。

http://tsukamineta.com/?p=836
 

もちろん、お近くの書店や、直接アマゾンからでもOKです。

内容は、3章立て。

1章 人を育てるリーダーシップ
 ~人材育成で気をつける8つのポイント

2章 自走を促す対話術
 ~対話の基本を押さえよう(1対1)

3章 チームを動かす対話術
 ~ライブ講師になろう

人前で話すひとは、必見です。

そして、ぜひ、ご感想をお聞かせください。
26年の経験をつめこんだ1冊です。

そして、それだけでなく、30人を超える方々にヒアリングして、コラムやエピソードをたくさん盛り込みました。
実践的な内容になっていると自負しています。