takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故

1986年(昭和61年)01月28日、TV中継で全世界の人々が見守る中、アメリカ・NASAのスペースシャトル・チャレンジャー号が10回目となる打ち上げの発射直後(73秒後)に大爆発を起こし、7人の乗組員全員が死亡した。低温によるOリングの弾性喪失や設計ミスで燃料が漏れたことが原因であった。(余談だが、当時24歳だった私は、ニュースで爆発の瞬間の映像を見てショックを受けたことをはっきりと覚えている。)

打ち上げられたチャレンジャー号は、発射直後の映像でもブースターロケットの横側から炎が上がっていることが確認されている。

元国務長官ロジャース氏を委員長とする大統領事故調査委員会による詳細な調査が行われた。その中の委員である、ノーベル賞物理学者R・ファインマン氏の調査の結果、爆発の主原因は次のとおりであることがわかった。

 

(1) シャトルを打ち上げるためにシャトル本体についている2機のブースターロケットは、打ち上げ現場で組み立てる部分があり、このジョイント部には隙間を埋めるためのシール材としてOリングが使われている(太さ1/4インチ、直径12フィート)。事故が起きた日の打ち上げ時の気温は、-1~-2度と、それまでの打ち上げの気温に比べて13-14℃ほど低かった。そのためOリングが硬化して弾性が失われ、シール効果が不十分となり、ガス漏れ検査するための穴から燃料が漏れ、これに炎がロケット下部から燃え移り爆発した、と推定された。R・ファインマン氏はこれを実証するため、公開会議の中で氷水にOリングを入れて弾性が失われる実験を行なった見せた。

(2) 調査の過程で、NASAおよびOリングを製作した会社が、低温におけるOリングの弾性の問題を予め知っていたこと、Oリングの製作会社が当日の打ち上げを中止すべきとの意見を出していたにもかかわらず、打ち上げが強行されたこと、などが判明した。

(3) Oリングのシール効果がなくなった直接の原因は、低温によって弾性が失われたためであるが、この部分の設計にも問題があった。ブースターロケット使用時にロケット内部に圧力がかかると、2つの接合部の間の外壁よりも接合部のほうが厚いため、接合部を節にして外壁が膨らむ「ジョイントローテーション」という現象が起きる。この現象は、Oリングがシールしている継ぎ間を引きはがす方向にモーメントが働くことが知られていた。また、ブースターロケットは前回使用時に発生したひずみを矯正して再使用するが、矯正しきれなかったシール部のすき間も問題となる。これらに対して、有効な解決策は打たれていなかった。

(4) これらの技術的な問題点に加えて、NASA内では現場の技師と管理者との間の意志の疎通が不十分であったこと、およびNASAが次年度の予算を取るために技術上の問題をある程度無視せざるを得なかったのではないかと分析している。

事故後、元国務長官ロジャース氏を委員長とする大統領事故調査委員会が組織され、原因調査がおこなわれた。引用文献の著者R・ファインマン氏も委員として参加し、精力的に事故の調査にあたった。

原因の解明とその対策のため、スペースシャトルの打ち上げが約2年間延期され、アメリカの宇宙計画に大きな影響を与えた。

 

ここまでは、「失敗知識データベース」の記事を短く纏めている。

 

チャレンジャー号の事故は、技術者倫理の教材として良く使用されている。

事故の原因となった、ブースター部分はモートン=サイオコール社が担当していた。サイオコール社のエンジニア、ロジャー・ボイジョリー氏は、低温の環境に晒されると、Oリングは弾性を失いシール効果がなくなってしまうことに気づいた。そのため、データを集めながら、上司を説得しシャトルの打ち上げ延期を要請した。しかし、NASAは、その要請に難色を示した。結局、NASAからの受注が欲しかったサイオコール社の経営陣は、NASAの判断に従ったのである。また、サイオコール社側は、この時、NASAが求める具体的な数値データを提出することができなかった。つまり、低温環境と言っても具体的に何度以下ならOリングの弾性が??になって、ガスがいくつ漏れると言うデータを提出できなかったのである(時間が足りなかった)。

この、話は大変興味深い問題を含んでいる。そのため、詳細は、また別の機会に書くことにする。