takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

20世紀タイプの大河小説「ジャン クリストフ」

私が持っているのは、岩波文庫-豊島与志雄訳(全4巻)です。

ジャン=クリストフJean-Christophe (1904-12)8年掛けて完成しています。

 

第1部「あけぼの」

 ライン河中流にあるドイツの小都会に生まれたジャン クリストフ・クラフトの祖父は,アントワープ出身の音楽家でした。けんかのせいで故郷を離れ、この土地の大公の宮廷オーケストラの楽長でしたが、創造的才能はありませんでした。父もまた、宮廷オーケストラの一員で,いろいろな楽器を自在に操りましたが、「世界中でもっとも音楽的と言われている民族によく見られる凡庸な完壁さを持っていた」のでした。しかし、ジャン クリストフには、真の才能があったのです。音楽から物語の映像を、自然物から音楽的印象を受けるこの幼児の内面では創造的なものへの胎動がありました。父は彼にピアノを教え、作曲もする天才児として宮廷へ押し出し、息子を食い物にしようという野望で子供の心を傷つけました。しかし、祖父の死後、父は酒びたりになり、宮廷オーケストラもくびになります。そのため、 11歳のジャン クリストフはオーケストラの一員として働くことになります。貧しいがゆえの屈辱、偉大なことをなしとげるのだという意識のあいだで、友情、初恋を経験して成長してゆきます。

 父の死を迎え,人生は闘争と苦悩の連続であり、それによってだけ1個の人間となれるのだと悟るります。

 2度の恋、最初は恋人の急死に終わり、2度目は裏切りに終わる。2つの恋いを続けて失った彼は、自ら遺伝的な悪徳である、酒にひたります。しかし、素直な民衆の心を持った伯父ゴットフロートとのふれあいで立ち直り、再び音楽の道を歩む決意をします。

 

第2部「反抗」

 小市民的ドイツ世界の偏狭さに窒息させられそうになり、ジャン クリストフは、ドイツ公衆の音楽愛の感傷的偽りに反逆します。「この国では理想主義は偽善へと転化する」と、ジャン クリストフは作中で力説しますが、このあたり日本人で音楽の才能のない私には、頭の中が???で一杯になります。ただし、???に負けないで読み進めて行くと、ジャン クリストフの音楽と一般受けする音楽に隔たりがあり、そこに悩む芸術家の苦悩が見えてきます。

 公衆も彼の音楽を愛さず、敵対します。クリストフも、自我を曲げず、粗暴と見られるような行動に出て宮廷での地位を失います。彼は、兵士の横暴に苦しむ農民たちの側に立って、あらそいに巻きこまれ罪を背負わされて国墳を越えパリへと向かいます。わずかな知り合いをたずねてパリでの生活の道を探すジャン クリストフのくそまじめさ、自尊心の直線的発露はパリっ子の笑いを買い、気を悪くさせます。また、その才能を見抜いているひとたちも素直に援助の手を伸ばしません。〈フランス人は自分の考えを知るためには、まず隣人の考えを知りたがります、その上で同じように考えるか、あるいは逆に考えるかを決めるのでした:これは、ロランにはそう見えたと言うことです〉

 音楽、批評、文学、演劇等各界人の軽銚浮薄さ、社会主義者のいんちきぶり、金融業者の横暴などが痛烈に批判されるのですが、作者の判断とジャン クリストフの視点がまったく無神経に混同されているのでここは、とても読みにくいです。

 田舎出の外国人が、パリに対して過敏に反応した結果を洗いざらいぶちまけたような主張となり、そのため、作品自体がパリ文壇で作中のジャン クリストフが受けたのと同じ冷たい扱いを受けることになりました。

 

第3部「家の中」

 かつて故郷の劇場で偶然ことばを交わした質素なフランス娘アントワネットは、ひそかにクリストフを愛していたのですが、再会する以前に亡くなります。その弟で若い詩人のオリヴィエ ジャナンは、多くの敵に避難されながらも世に出はじめたジャン クリストフの作品の讃美者として、彼の前に現われます。

 ジャン クリストフは、オリヴィエを通じてうわべ虚飾の下にある、真剣で静かで理想主義的なフランスの真の姿を知ります。ジャン クリストフの旺盛な生命力と闘争を乗り越えて進む楽天主義と、オリヴィエのデリケートさは、対照をなすのですが、ふたりとも、英雄的な理想主義と使命感に燃えていることによって深く結びつき、共同生活を始めます。だが、やがて、オリヴィエは恋をし結婚します。ジャン クリストフにも女友達や〈美しく自由な共同生活〉で結ぼれた恋人ができるのですが、相手をも自分をも尊重するために、友情を保ったまま別れることになります。しかし、オリヴィエの妻となったジャクリーヌは本能的に利己的で無道徳な女心(ジャン クリストフへのたわむれの接吻)の持ち主でした、そのため長男を生んだあと、結婚生活は破綻します。

 ジャン クリストフを常にかばう熱心な、讃美者の1人、オーストリヤ大使館員の妻グラチャは以前音楽を教えたイタリヤ人の少女でした。ひそかに彼を愛していた彼女でしたが、は今では友情しか持っていません。逆に、ジャン クリストフが愛を感じた時、彼女は夫の転勤でパリを去ります。

 

第4部「燃えるいばら」

 一個人生活での悲しみの体験を味わいつくしたふたりは、社会主義に関心を向けるのですが、メーデーのデモに参加し、弾圧の混乱の中でオリヴィエは警官に刺殺されてしまいます。ジャン クリストフも、別の場所で警官達に襲われるのですが、逆に剣を奪って殺します。そのため、スイスに亡命して友人の医師にかくまわれることになります。その若い妻アンナの素朴で純粋な精神と健康な肉体は、ジャン クリストフと離れがたく求め合ってしまうのですが、ふたりは苦悩の末別れます。

 ジャン クリストフは絶望の底から神を再発見し、さらに新しい創造へ進みます。

 年月が流れ、大作曲家として尊敬を受けるようになった彼は、未亡人となったグラチアに再会します。ローマ、パリなど各地での交友が続くのですが、彼女の息子が病弱のために結ばれないまま彼女はこの世を去ります。

 ジャン クリストフはオリヴィエの遺児ジョノレジュを精神的養子として愛し、育てていました。ジョノレジュは、1890年代生まれのスポーツ好きで懐疑を知らぬ世代の少年でした。やがてジョノレジュはグラチアの娘アウロラと結婚します。

 ジャン=クリストフは、波澗の果てに生涯求めて来た理想の調和を発見し、静かな喜びのうちに死を待ちます。

 

 相当、端折りましたがあらすじは、こんな感じです。