takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

『読書』という体験

昨年暮れから今年にかけて、2冊の本を取り上げてここで書きました。

プルーストとイカ』、『意識をめぐる冒険』です。

私は、本を読むのは割と早い方です。普通の新書なら2時間くらいでしょう。40歳を過ぎてから、小説はほとんど読まなくなりましたが、夏目漱石の『明暗』を数年前に読み返した時、日曜日を使って4時間くらいでした。

と言って、「速読」を学んだりマスターしたりという訳ではありません。「速読」そのものには全く興味がありません。正直、眉唾ものだと思っています。

早く読むのは簡単です。アウトプットのために答えを探すつもりで読むと早く読めます。この本から「〇〇を見つける」と決めて読めば、関係無いところは目で追うだけですから、早く読めるのです。私はこれを「探し読み」と言っています。別に悪いことではありません。本は、情報をインクで紙に印刷したものですから、その情報を探して、自分の都合で使うのですから理に適っています。必要もないのに全て丹念に読む方が理屈にあいません。本を読むために生きているのではありません。

しかし、『プルーストとイカ』、『意識をめぐる冒険』のように、情報を仕入れるだけではない本もあります。作者の話をじっくり聴いて、質問をまとめノートを取りながら読み進める本は、読む終るまで2~3日あるいは4~5日かかります(1日あたり3時間くらい)。これは、私にとって作者との対談みたいなものです。ですから貴重な『体験』です。

時々、「本で読んだ知識なんて全く役に立たない、実際に体験しないとダメだ」なんて仰る方がいます。それは、一部正しいと思います。そんな読み方もあるからです。飛ぶようにページを捲って、書いてあることを「なるほどね~」と読めば、知識の吸収だけで終るでしょう。小説なら、「あ~面白かった」で終るでしょう。

しかし、そうではないまさに「体験」と言うに相応しい読書もあります。毎年、年初の思います、「今年はどんな体験ができるだろうか?」と。

年に数回、池袋のジュンク堂を上から下まで降りながら、「体験」できる本との出会いを求めています。素晴しい体験のときは、皆さんにもお知らせ致します。

 

プルーストとイカ-3

少し空きましたが、『プルーストとイカ』を終らせます。

ここまで、ディスレクシアの説明ばかりでイカに対する説明はありませんでした。

実を言うと、本の目次の中にも「イカ」と言う言葉は一つしかありません。第Ⅰ部第1章に「プルーストとイカに学ぶ」とあるだけです。では、イカから何を学ぶのか。イカから何かを学ぶより、刺身にして食べた方がより充足感を味わうことができるのにと、思いながら読み進めると、下記のように説明されます。

 

1950年代の科学者たちは、臆病なくせに器用さも備えているイカの長い中枢軸索を研究対象として、ニューロンがどのように発火、つまり興奮して、情報を伝達しあうのか、解明しようとした。なかには、何かがうまくいかなかった場合に、ニューロンがどのように修復、補正するのか調べようとした科学者もいる。現代の認知神経科学者たちは、研究のレベルこそ違え、脳内でさまざまな認知プロセス (つまり心理プロセス)がどのように働くのか調査している。この研究では、獲得したばかりの文化的な発明が、脳の既存の構造物に今までにない機能を要求することを示す、うってつけの例として用いられている。人間の脳が読むために行わなければならないことと、それがうまくいかなかった場合に適応する巧みな方法に関する研究には、初期の神経科学におけるイカの研究と相通じるところがある。

イカに対する説明はほとんどこれだけです。確かに、イカは、身体の大きさに比べて異様に太い背骨のような神経節を持っていますから、そこに電極を繋いで様々な実験が行われていました。上記の説明はそのことを言っています。

この他、イカの子供が上手く泳げない場合の話がほんの少しありますが、何度も何度も出てくるプルーストに比べると扱いはひどく簡単です。まさに

プルーストイカ

これくらい扱い方が異なるのです。アメリカ人は一般的にイカを食べないと思いますから、ウルフ博士が大のイカ好きとは思えません。受け狙いで「イカ」を出場させたとも思えないので、なぜ「イカ」を本の題名に使ったのか不思議です。遺憾ながら、この謎は如何ともしがたく以下、書き進めますが、謎は解明できません。こんなことではいかんと思います。

前回、第9章の結論が一番面白いと書きました。この他、第2章では「読むことの始まり」として、南アフリカのブロンボス洞窟内で発見された網目模様の線刻を施した石の話があります。これは、77,000年前の石ですが、いわゆる「文字」が発明される遙か前から、人間は記録し読むということを行ってきたのだと言うことが分ります。

自分のためなのか、他の人のためなのかそれはハッキリしません。しかし、事象を記録し、それを読み取ることで間接的に事象を認知する、それを口頭で言語化することを繰り返して言語が発達してきたのでしょう。

その後人類は、現在「クレイトークン」とよばれる粘土板に線刻することで記録を残すようになりました。その前は、石に直接彫り込んでいたのですから、粘土になって随分楽になったでしょう。以下、クレイトークンの写真をネットから集めました。一番上のものは、本の中に出ています。

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これらの粘土板は、紀元前8000年から4000年の頃まで使用されていたようです。

私たちの紙なんて、まだ1000年程度です。

上記のような一種の記号を見て、脳は何を読み取っていたのか、とても興味深い話です。また、現在の我々は、文字と記号を区別しています。住所を書くときに使われる「〒」と「郵便番号」は同じ意味ですが、片方は記号であり、片方は文字です。

本の中では、こんな説明が詳細に続けられ読む方はわくわくします。さらに、第Ⅱ部の第6章では「熟達した読み手の脳」と題して、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」から、有名な大審問官の部分を引き、最も難解な部分の解釈を試みています。文藝評論家の批評と全く異なる説明に驚きながら、楽しく読めることでしょう。

 

と、言う訳で、昨年読んだベスト1位は、『プルーストとイカ』です。

2008年10月15日に第1刷

2014年2月5日に第7刷(私が持っている本)

これを見る限りそれなりに読まれているのだと思います。「読む」という行為に関する全く新しい説明でもあると思います。興味のあるかたにはお勧めします。

 

 

『プルーストとイカ』-2

やっと本題に入ります。

この本のサブタイトルは、「読書は脳をどのように変えるのか?」です。

おそらく、このサブタイトルが無ければ何の本なのか分らないだろうと思います。著者は、メアリアン ウルフ博士は、タフツ大学の「読字・言語研究センター」の所長という肩書きをお持ちです。専門は小児発達学部で、もっぱら「ディスレクシア」の研究にとりくんできた科学者です。また、ウルフ博士の子供もディスクレシアであるということです。

この本は、三部構成です。

第Ⅰ部:脳はどのようにして読み方を学んだか?

第1章~3章

第Ⅱ部:脳は成長につれてどのように読み方を学ぶか?

第4章~6章

第Ⅲ部:脳が読み方を学習できない場合

第7章~9章

全350頁弱です。

ずばり言います、第9章:結論-文字を読む脳から”来るべきもの”へ

が最高に面白いと思います。

科学的な知見はあちらこちらに散りばめられて事例として紹介されていますから、どこを読んでも「へ~!」となるでしょう。浅学な私には驚きの事例ばかりでした。

しかし、「へ~!」よりも「なるほど、そういうことか」の方がスッキリします。本を読んだ甲斐があるというものです。はてなの皆さんはまだ若い方が多いと思います。しかし、私のように50歳を過ぎると「死ぬまでに後何冊読めるか」が気になります。ですから読んで良かったと思える本に出会いたいのです。仮に今年からまた努力して年間70冊読んだとしても、男の平均寿命まで(80歳として)後、27年しかありません。27年×70冊で1890冊です。途中で頭が惚けた場合、もっと少なくなります。無駄な本は1冊も読むことはできないのです。

と、思っているとウルフ博士に叱られます。

少し長いのですが引用します。(太字強調は私、匠です)

 

 現に、私たちの脳には、「遅延ニューロン」というものがある。その役割はただひとつ、他のニューロンの情報伝達速度をほんの数ミリ秒だけ遅らせることにある。私たちが直感的に把握した現実に順序と優先順位を与えて、サッカーの動きや調和のとれた運動を計画したり、同調させたりできるようにしてくれるこの数ミリ秒が、計り知れないほど貴重なのだ。
〝より多く〟、〝より速い〟はうが絶対によいという前提には、大いに疑問を抱くべきだ。アメリヵ社会では、この前提がすでに食や学習方法をも含めたあらゆるものに影響をおよぼし始めているうえに、その恩恵のほどは疑わしいのだから、なおさらである。たとえば、アメリカの子どもたちはもう、変化の加速化を体験しているわけだが、この加速した変化は、単語を思考に変え、思考を想像したこともないような可能性が詰まった世界に変えることのできる注意のあり方に、根本的な影響をおよぼす結果をもたらすことにはならないか? 次世代を担うこの子どもたちの、音声言語と書記言語に洞察と喜びと苦悩と知恵を見いだす能力が、激変してしまうことにはならないか?
 子どもたちと言語との関係が根底から覆ってしまうのではないか? 現代の人々がコンピュータの画面上に表示される情報にすっかり慣れてしまったら、文字を読む脳が今備えている一連の注意・推論・内省の能力は、あまり発達しなくなるのではないか? だとしたら、これからの世代はどうなる? 
 指導のないままに情報にアクセスすることに対してソクラテスが抱いた懸念は、古代ギリシャよりも今の時代にあてはまるのではないだろうか?それとも、多重課題(マルチタスク)をこなし、膨大な量の情報を統合して優先順位をつけるために私たちが求めてやまない新しい情報テクノロジーは、今のスキルより貴重とは言わないまでも同じくらい大切な新しいスキルの発達に役立ち、そのスキルが人間の知的能力や生活の質、種としての衆知を向上させてくれることになるのだろうか? そうした形で知能が加速化すれば、内省と人類にとって望ましい結果の追求とに割ける時間が増えてくるのだろうか? その場合、この新たな一連の知的スキルは、現在のディスレクシアのように、普通とは異なる回路をもつせいで社会的に公認されない子どもたちの新たな集団を生み出すことにはならないだろうか? あるいは、そうなった以上は、脳の編成パターンの相違による子どもたちの学習能力の差を、長所も短所ももたらす遺伝的変異(訳注‥個人間のDNA配列の違い) のせいだから仕方がないと考える覚悟ができてしまうのだろうか?ディスレクシアは、脳がそもそも、文字を読むように配線されてはいなかったことを示す最もよい、最もわかりやすい証拠である。私はディスレクシアを、脳の編成がまったく異なったものになりうることを日々の進化のなかで思い出させてくれるものだと考えている。
 文字を読むには不向きでも、建築物や芸術作品の創造やパターン認識に不可欠な編成もある。パターン認識の舞台が古代の戦場であろうと、解剖のスライドの上だろうと、変わりはない。脳の編成のこうしたバリエーションのなかには、近い将来、さまざまなコミュニケーション様式の必要条件となるものもあるかもしれない。
 この21世紀に入って、私たちはほとんどの人が予測どころか、きちんと理解することもできないような形で、重大な変化を急激に遂げようとしている。本書において、文字を読む脳の進化と発達とさまざまな編成の中心テーマとしているのも、この歴然とした推移感である。書字の進化と文字を読む脳の発達は、種として、数多くの音声・書記言語文化の創出者として、また、拡大を続ける多様な知能の形体を備えた個々の学習者としての自分自身を覗ける素晴しいレンズであるからだ。

「 ~ではないだろうか?」と言う仮定疑問文が多くて読みにくいとも言えます。私は、仮定疑問文を使いません。まあ、これは翻訳者の責任でしょう。ですが、数回読めばウルフ博士の言いたいことは分ると思います。

 こんな結論に出会って、私はやはり考えさせられました。引用が長かったので、明日もう一度、この本のことを書いて終わりにします。

 

 

『プルーストとイカ』

今年の正月は、ほんとに良い天気に恵まれました。

と言って、別にどこへも出かけなかった私ですが、近所のスーパー銭湯にはぶらりと行きました(2日の土曜日)。後は、年賀状を投函するために、少し遠回りして散歩をしたぐらいです。

 

さて、早く読めなかったことを後悔するぐらい面白い本だった「プルーストとイカ」です。先ずは、本の中で詳細に書かれている「ディスレクシアDyslexia)」についてご説明しましょう。

 

ディスレクシアとは、学習障害の一種で、知的能力及び一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障害です。顕著な例では数字の「7」と「しち」を同一のものとして理解が出来なかったり、文字がひっくり返って記憶されたりして正確に覚えられない、など様々な例があります。

諸外国によって事情は異なりますが、アメリカでは、全体の10~20%が程度の差はあれディスレクシアであると言われています(いくらなんでも多すぎるような気もします)。

音声言語の場合は、ウェルニッケ野とブローカ野によって処理されます。この部位は人類百万年の進化の過程で徐々に発達してきた領域で、猿人段階ですでにブローカー野にあたるふくらみが生まれていたことが分っています。例えば、現在のニホンサルなども叫び声のような吠え方で、危険を知らせる行動を取りますから、猿人や原人が音声言語に近い合図を発していたとしても別に不思議ではないでしょう。

人間の場合、耳からはいった刺激は聴覚野で特徴がとりだされ、言語を処理する専門領域であるウェルニッケ野とブローカ野を介して前頭葉に送られ、意味が理解されます。ここまでできるようになるまでに、100万年の時間を必要としたのです。

一方、文字言語はどうでしょう。文字言語の場合、目からはいった刺激は視覚野で形態情報を抽出された後、隣接する39野(角回)と40野で音声イメージに変換されます。その後ブローカー野から前頭葉に送られることがわかっています。要するに文字言語は一度「音」に変換されなければ理解されません。ディスクレシアの人はこの変換部分でつまづくらしいのです。何しろ、文字が考え出されてから1万年以下の歴史しかありません。ですから、人間の脳は文字を処理する専門の領域を進化させていないのです。従って、文字の読み書きは個人が努力して習得しなければなりません。子供の頃の読書がいかに大切なことなのか、これで分ると思います。

文字の形体をを音声に変換する39野・40野とはどのような領域でしょうか。39野と40野は視覚野・聴覚野・運動感覚野・体性感覚野に囲まれており、こうした諸領域を統合する働きをしています。おそらく、石器等を製作し使いこなすために発達した領域で、文字処理は石器のための領域を転用しておこなわれていた訳です。

現在の「ヒト科ホモサピエンス(私たちのこと)」には、文字を読み書きするための中枢領域がありません。あと数十万年すればできるかもしれませんが、とにかく今はありません。そのため、私たちは、脳の他の領域を使って代替えしています。その使い方は、幼少期の読書体験によってトレーニングされるため、人によって異なるということが分ってきました。ディスレクシアの人々は通常の人々とは異なる脳の領域を使っており、そのためスムーズな文字の読み書きが行えないと考えられています。

 

プルーストとイカ』の冒頭部分でプルーストの言葉が引用されています。

「読書の神髄は、孤独のただなかにあってもコミュニケーションを実らせることのできる奇跡にあると思う」

明日に続きます。

 

 

 

今年の予定

明けましておめでとうございます。

安全な社会を実現するため、一人でも多くの優秀なエンジニアを育成したいと考えている匠習作です。

遅れていますが、『プルーストとイカ』は、明日と、明後日でアップします。

今日は、今年初めてのブログですから、現在決まっている試験対策講座のお知らせです。

 

2月14日(日)東京:新技術開発センター(技術士試験対策・3ステップ)

2月21日(日)大阪:新技術開発センター(技術士試験対策・3ステップ)

 

3月13日(日)東京:新技術開発センター(技術士試験対策:総監)

3月20日(日)東京:自主開催(受験申込書の書き方)?

3月21日(月・春分の日)大阪:新技術開発センター(技術士試験対策:総監)

 

4月2日(土)仙台:新技術開発センター(28年度試験予想)13時~開始のため、2日の朝に出発

4月3日(日)仙台:新技術開発センター(受験申込書の書き方)

 

4月23日(土)東京:新技術開発センター(白書を読む)

4月24日(日)大阪:新技術開発センター(白書を読む)

 

5月22日(日)東京:新技術開発センター(筆記文章ブラッシュアップ講座)

5月29日(日)大阪:新技術開発センター(筆記文章ブラッシュアップ講座)

6月5日(日)名古屋:新技術開発センター(筆記文章ブラッシュアップ講座)

6月18日(土)東京:自主開催(模擬試験講座)

 

3月20日は、まだはっきりしません。受験申込み書はとても重要なのですが、軽く考えているかたが多くて少し困っています。筆記試験に受かってから、口頭試験の講座を受けるときに、申込み書を見せて頂いて驚くことがあります。申込み書は、4月に提出します。筆記試験に受かってからでは遅いのです。口頭試験で落ちる方の半分強は申込み書が原因です。

一方、新技術開発センターさんの講座は、回数が少し増えました。また、新しく「白書を読む」という講座も企画しました。白書はとても重要な資料ですが、建設部門以外の方はあまり読みません。そのため提案しました、全く私の発案です。

「3ステップ」の方は、昨年とほぼ同じ内容です。申込が多ければ第二回もあると思います。筆記試験の解答方法を分りやすく解説します。

この他、未定ですが、中小企業向け「医療機器業界転進」の方法みたいな講座も行うと思います。21世紀の成長産業「医療機器業界」で会社を伸ばしたいと考えている経営者の皆さん、ぜひどうぞ。皆さんが思っているほど、医療器業界参入は高いハードルではありません。

 

本年も、よろしくお願いいたします。

 

 

 

今年の終わりまで残り4時間をきりました

皆さん、どうもお疲れ樣でした。

このブログをお読み頂いている皆さん、本当にありがとうございます。

今年は、時間が取れず思った以上にブログを書くことができませんでした。

この正月休みの間に、戦略を立て直し来年は読んで下さる方に裨益できるようなブログを書いて見たいと思っています。

来年は、『プルーストとイカ』から始めます。

 

どうぞ、良いお年をお迎え下さい。

 

意識をめぐる冒険

この本は、343頁全10章で構成されています。

そのうち、1・2章は子供の頃からの自分の生い立ちやフランシス クリックとの出会い等自伝的な話になっています。クリストフ コッホが30年前に「意識」の研究を始めるころは、「意識」の研究なんてキワモノ扱いの状態だったようです。研究の方法自体も全く確立されておらず、どうすれば哲学や心理学とは違う科学の土俵に「意識」を乗せることができるのか?そのスタート地点の話を興味深く読むことができます。

3章からは「意識」の謎について語り始めます。脳内で生じている物理化学反応と、その脳が生み出す意識という現象のあいだには大きなギャップがあります。これは埋められないギャップだと考えている研究者も多いようですが、本の作者であるクリストフ コッホは、そう考えません。さらに哲学者や社会学者が科学の弱点を指摘する事実を述べながら、それでも「科学が最も信頼のおける方法である」と明確に主張しています。もちろん、私もそう思います。

4章の冒頭はこんな書き出しで始まります。

専門知識をもたない人が、原子物理学や腎臓透析について持論を振りまわしても、誰も相手にしてくれないのは当たり前だ。ところが、意識の話となると、関連する重要な脳科学の知見をほとんど知りもしないのに、自説を好き勝手に展開しても許されるという雰囲気がある。しかし、そんな適当な言説から意識について学べることなどほとんどない。

脳と意識に関する心理学、神経科学、医学の知識は、日々膨大に蓄積されている。脳科学者や認知科学の研究者は、世界中に5万人以上もあり、毎年、何千報もの新たな論文が発表され、過去の知見の上に積み上げられている。

 (日本では3・11以降、原子力発電の原理を知らない人でも、原子物理学の話をしていましたけど)

5章以降の後半では、コッホ自身の研究成果が語られています。コッホの推測では、おそらく「脳の前方にある前頭前皮質と後方の高次元視覚領域を互いに長い軸索でつないでいるピラミダル・ニューロンの集団ネットワークが意識の内容を担っている」とのことです。ようするに、意識を発生させる神経細胞はないのですが、いくつかの神経細胞が繋がって、相互作用することで意識が発生しているのではないかと考えられている訳です。
これは、とても面白い考え方ですね。

全体的にとても読みやすい本で、それほどの専門知識は必要としません。科学に興味のある高校生なら読めると思います。私は、2日間の通勤電車の中で読み終えました。正味、3時間くらいでしょう。

一つ注意して頂きたいのは、まだ、正解は分らないということです。この本を読み終えても「意識」が何であるのかは、分りません。ただ、最先端ではこんな研究が行われて、現在ここまで解明されたということだけが分ります。もちろん、そこがエキサイティングなところです。

 

 

先ずは、『意識をめぐる冒険』から

著者のクリストフ コッホについて、Wikipediaから紹介します。(一部略)

 

1956年、アメリカに赴任中のドイツ人外交官の息子として、ミズーリカンザス・シティで生まれる。その後、外交官である父親の転勤に連れられる形で様々な国を移動。オランダのアムステルダム、ドイツのボン、モロッコのラバト、カナダのオタワと引越しを繰り返しながら幼少時代をすごす。1974年にモロッコの高等学校リセ・デカルトを卒業し、フランス国のバカロレアを取得。1974年からドイツのテュービンゲン大学大学で、物理学と哲学を学び始め、1980年に同校で修士号(物理学)を取得。1982年にはドイツのマックス・プランク研究所で PhD(物理学)を取得。その後アメリカに渡り、1986年まで四年間、MITの人工知能研究所および脳・認知科学部門ポスドク。1986年よりカリフォルニア工科大学で教授。2011年3月よりアレン脳科学研究所の Chief Scientific Officer となり、活動の基盤をカリフォルニア工科大学からアレン脳科学研究所に移した。

1990年頃より、意識の問題は神経科学が扱うべき問題だと主張している。フランシス・クリックとの共同研究が知られている。

    コッホはアップルコンピュータが販売しているマッキントッシュの熱烈なファン(マカー)で、ホームページでも「マックは20世紀中で最も美しく優雅な人工物だ」と絶賛している。自身の右肩にはアップル社のロゴマークをタトゥーまでしているほど。しかし彼の妻はタトゥーには反対の立場であるため、旅先で断りなくコッソリ入れてきたらしい。ちなみに彼の息子はタトゥーを入れることには賛成だが、企業のロゴを彫ることはあまり格好いいことだとは考えていないとのこと。
    コッホは色好きでも知られている。自身のホームページでも "I love colour(僕は色を愛してる)"と書いているように、実際、服装、髪、研究室のインテリアなどにおいてしばしば彩度の高い派手な色を用いている。髪の毛をオレンジ色や赤色に染めていた時期もある。(下の写真は2008年)

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  今回の『意識をめぐる冒険』は、10年前の2006年に発売された『意識の探求』(上下)・岩波書店の続きに近いと思いますが、今回の方が文章も熟れてとても読みやすくなっています。翻訳者の土谷氏は、コッホの弟子であり、一時期共同研究者でもあったかたです。前回も今回もいわゆる「超訳」ということで翻訳されたようですが、本来翻訳とは、英語の単語を辞書的に日本語にするのではなく、原作者の主張を考えそれを上手く伝えるのが役目です。「超訳」は、流行言葉のようなものですが、明治時代の翻訳は大抵「超訳」です。

 

本題に入りましょう。

私は、前著の『意識の探求』(2006年)と、さらにその前の『DNAに魂はあるか』(フランシス クリック著・1995年)の頃から、「意識とは何か」について非常に興味がありました。

意識って不思議ですよね?

脳は、脂肪とタンパク質という物質でできています(人間の身体はみんなそうですけど)。重さは1,300~1,600グラム、大雑把に言って体重の2%です。

しかし、重さとして2%程度ですが、血液の循環量は心拍出量の15%、酸素の消費量は全身の20%、グルコースブドウ糖)の消費量は全身の25%と、いずれも質量に対して非常に多いのが特徴です。

やり方が分らないから誰も言いませんが、一番のダイエットは頭をいっぱい使うことなんです。なにしろ、身体に入った糖分の25%は脳が使っているのです。

意識は、この大飯食らいの脳から生まれていると考えるのが妥当です。

「魂」などと言う良く分らないものが身体の中にこっそり隠れているのではありません。どう考えても脳の中で常に発生している電気信号と化学物質のやり取りによって「意識」は発生しているのです。言い換えると、物質の反応が非物質である「意識」という現象を作り出しているのです。

 

なんて書いていると、本の紹介に入れません。

すみません、明日、もう一度この本の紹介でブログを書きます。

今日はプロローグで勘弁して下さい。

バーガンさんすみません。

 

 

 

 

今年は書けなかったブログ

皆さん、こんにちは。

2ヶ月近く空けてしまいました、匠です。

天命を知る年齢をすぎて、こんなにやることが多いのは問題だと思います。

立ち止まって考える余裕が全くなかった一年でした。

正直今年は本もあまり読めなかった、一年です。

全部ノートに付けていますが、なんと35冊、1週間に1冊読んでいないことになります。電車の中でもノートを付けたりタブレット(2世代前のiPadです)の方が多くて、読書の時間が確保できなかったのが原因です。

そんな読書生活でしたので少し気が引けますが、年末ですしベストスリーぐらいはご紹介しておきたいと思います。

なお、来年からはなるべく週2~3回ブログを綴る予定です(口先ならぬ筆先だけかもしれませんが)。

私が読んだ少ない本から3冊選ぶと以下の結果になりました。

 

3位:『世界最高のプレゼン術』ウィリアム リード著・KADOKAWA

2位:『意識をめぐる冒険』クリストフ コッホ著・岩波書店

1位:『プルーストとイカ』メアリアン ウルフ著・インターシフト刊

 

この3冊です。

3位の『世界最高のプレゼン術』だけはビジネスブックと言って良いと思います。私は、人前で話す機会が増えているので、やはり少しでも上手く話せるように練習しています。そのために購入したのですが、具体的な内容ばかりで実践しやすいのが特徴です。正直、プレゼンに関する本は外国人の書いた本の方が良いようです。ガー レイノルズ氏、ジェレミー ドノバン氏、アネット シモンズ氏などの著作です(彼らの本は、今年読んだ訳ではないので今回の対象ではありません)。

ウィリアム リード氏は、日本語もとても上手です。YouTubeで検索してみて下さい。

2位の『意識をめぐる冒険』は、DNAのフランシス クリック博士と長年共同研究していたクリストフ コッホ博士の最新刊です。一部、予備知識がないと難しい本でもありますが、知的興奮を得られる本です。「意識とは何か?」現段段階で解答はありませんが、どんな研究が行われているのか知りたい方はぜひどうぞ。

1位の『プルーストとイカ』は、最新刊ではありません。正直、私が知らないだけでした。出版されたのは2008年ですから、8年も前です。もっと早く読まなかったことが悔やまれる本でした。本の題名は変な感じですが、原題も全く同じです。「PROUST AND THE SQUID」。

プルーストは、フランスの作家マルセル プルーストのことです。プルーストがイカとどんな関係があるのか?ものすごいイカ好きの人だったのか?と考えないで下さい。

この本は読字障害(ディスレクシア)について語った本ですが、脳の働きと構造についてとても興味深いことを教えてくれます(イカについては後で触れます)。

1位と2位の本は、とても面白い本ですから、今年の締めくくりに30日、31日と続けて少し詳しくご紹介します。

 

 

講座に関する質問にお答えします

たくさんのお問い合わせ、ありがとうございます。
メールでも返信していますが、同じようなご質問がありますので、ここでも回答致します。
Q:いつから受講可能ですか?
A:11月15日目指して準備中です。

Q:受講料の支払い方法は?
A:銀行振り込みだけです。お申し込みをされた方にメールでお知らせ致します。

Q:講座の内容を詳しく教えて下さい。
A:基本的には、解答論文の書き方がメインです。ただし、Cコースの方は添削回数が少ないですから、書き方に関する質問・疑問にお答えすると言う方法です。また、私自身の著書「3ステップ必勝法」をずっとコンパクトに纏めたものをテキストに使います。

Q:添削は、どれくらいで返却されますか?
A:試験勉強中は、不安なものです。解答して提出してもあれでよかったのか不安です。その不安を少しでも取り除くために、極力はやくお返しするのが私のやり方です。具体的には、原則36時間以内にお返し致します。これは、おそらく他のどんな講座よりも早いと思います。さらに、36時間を4時間過ぎたら添削回数を1回プラスするなどの特典も考えています。以後、4時間毎に1回です。丸一日遅れたら6回分増えることになります(できるかどうか不安です)。

Q:択一対策はどうですか?
A:試験に役立つと思われる資料をご提供致します。ネットから集めたもの、本から集めたもの様々です。また、過去問題も集めてありますし、過去問題から抜き取ったキーワード集も提供できます。

Q:途中からコースの変更もできますか?
A:A・Bコースへの変更は空きがあれば追加料金だけで可能です。ただし、昨年の実績から見ると、合計10名ですから早めに満席になると思います。

Q:申込み書は、どの部門でも対応可能でしょうか?
A:昨年も21名で9部門対応しました。また、申込み書の「業務の詳細」は、完成までに時間が掛かる場合が多いので、早めに始めて下さい。

Q:体験入会はできますか?
A:申し訳ありません、今のところできません。ただし、年内一杯ぐらいで対応可能です。とにかく、現在作成中です、今なら逆に希望に添った形で対応できると思います。