読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

倫理問題を考えよう:冷たい方程式-2

日常 書評 資格・試験

 この小説の問題も安全設計の方へ話を持って行くとややこしくなります。そもそも、小惑星を人間が調査するような時代であれば、薬を届けるような業務は無人探査機が行うはずです。人間を乗せるのはお金が掛かるからです。地球の大気圏を飛ぶ飛行機だって近いうちにロボット操縦になりますよ。航空事故は間違いなく減るでしょう。ですから、宇宙ならなおさらです。

 しかし、約60年前に書かれたSF小説ですからそこまで考えられていません。人間が、科学技術の進歩を予測するとき一番間違えているのは、人工知能に関することではないかと思います。簡単なことを難しく予測したり、難しいことを簡単だと予測したりです。

 話を戻します。この小説の物足りなさは、絶対的な規則とは言え、その規則に従って密航者を宇宙空間に放棄する(つまり殺す)時の悩みがいかにも軽いことにあります。「心を鬼にするんだな」とか「しかたがないんだ」とか、「どれほどすまなく思っているか、きみにはわかるまい。そういうふうにしかならないんだ」と、描写が軽いのです。短編なんだから仕方がないとも言えますが、だったら短編にしないでもっと長く書けば良いと思うのです。しかも、たとえ軽くでも悩む理由は「認識票に書いてあるとおり読む。密航者は若い娘なんだ」と言うことです。

 ようするに、EDSと呼ばれる小型の緊急発進艇のパイロットは、大抵の場合、1度や2度は密航者に遭遇することがあるのです。しかし、その時遭遇する相手は、「心のひずんだ男、卑劣で利己的な男、狂暴で危険な男」だけでしたから、良心の呵責を感じる事無く、そんな犯罪者予備軍の男は宇宙空間へ放り出していた訳です。しかし、今回はそうではなかった。「兄に会いたいという一心で罰金を払い、泊めてもらう代わりに仕事をしようとニコニコしながら」話す18歳の青い目の女の子だったのです。

 しかし、狂暴そうに見えた男だって、どこかの星に残した娘に会いたくて密航したかもしれません。汚い身なりはお金がないだけの場合もたくさんあります。男なら問答無用で宇宙へ放り出し、女なら「すまない」と思うというのは一寸頂けません。それとも、これは50歳過ぎの男のひがみでしょうか。

 もう一つ、この話では女の体重、つまり物体として運ぶために使用するエネルギーの不足に問題があるだけで、空気や水の心配はないようです。それなら、代わりにある程度の重さのものを何でも良いから棄ててしまえば良いのです。二人が着ている宇宙服も裸になって宇宙へ棄ててしまえば良いのだし、他にも棄てられるものが全くないということは考えられません。もっとも、女の方が男と二人きりの中で服を脱ぐなら死を選ぶと言うなら話はまた別です。

 

続きます。