takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

あの頃は燃えた、熱かった『日本オーディオ界』の70年代、80年代-13

 オーディオの世界では音の大きさを音圧(dB)で表現します、しかし本来、音の大きさ(ラウドネス)の単位はsone(ソーン)であり、音圧レベルが40dBの1,000Hzの純音の音の大きさを1soneと定義しています。人の感じる音の大きさが2倍になれば2sone、半分になれば0.5soneと表されます。

 一方、オーディオで使われる音圧とは音による圧力の大気圧からの変動分です。もともとの単位はパスカル (Pa) です。健康な人間の最小可聴音圧は実効値で 20 μPa ですが、これを基準音圧として音圧をデシベル (dB) で表したものを音圧レベルと言います。

 ただし、こう言った話はあくまで測定器を使った時の話であり、人間の耳で聴いた場合は測定器の結果とズレが生じます。

 例えば、脳によって生じる音響心理学的現象もありあります。録音された音楽にパチパチというレコード独特のノイズがあっても、人はそのようなノイズを気にせずに音楽を楽しむことができます。人によってはノイズを全く忘れてしまう場合もあり、後でノイズがあったかどうかを聞いても答えられないのです。私も被験者になってやってみましたが、途中で忘れてしまいました。歳をとった現在の話ではありません、まだ、若い頃の話です。

 この現象は、心理音響マスキングと言われ、人間が音楽を聴くときのダイナミックレンジを測る際に重要な要素となります。要するにノイズの存在があってもなくても知覚的にはその違いが分からない時があるのです。また、これとは別に、大きな音の中に埋もれた小さな雑音を聴き分ける力も人間にはあります。心理音響マスキングは、オーディオと言う工学の世界と人間の生理学を結びつける重要な現象であると思います。ただし、私はその方面に詳しい人間ではありません。あくまでも、エンジニアとしてのオーデイオマニアです。

 しかし、現在のオーディオ工学は人間の音に対する認識能力を利用して、ノイズリダクション(ノイズを小さくする技術)を行っています。脳が行うマスキングを積極的に応用しようということです。脳はパターンを認識しやすいため、音を圧縮して記録し、拡大して再生する時に失われた部分を同じパターンで補完しようとします。脳が勝手にそう聴いてくれるのですがか、その補完能力を使わない手はありません。同じような信号を探し失われた部分にその信号を埋めればよいのです。人間の脳はそれをノイズと思わず、元の音と聴き分けることができません。

 さらに、これはオーディオと異なりますが、例えば、無線通信士がノイズの多い中でモールス符号を聞き取ろうとしていると、実際にはモールス符号がないにも拘らず、ノイズからモールス信号を聞き取ってしまうことがあります。と言ってこれは幻聴ではありません。通常の生理現象であり、通常に行われている脳の反応なのです。

 良い音の説明から思わぬ方向へ話がズレましたが、その辺は適当に読み飛ばして楽しんで下さい。

 ここでもう一つ、不思議な現象をご説明します。それは「音場」認識という現象です。基本的には、平面上にならんだ、2個のスピーカから再生される再生音が三次元に配置された楽器の位置を再生できるのです。例えば、ジャズだったり、室内楽曲だったりしますが、良い素材(主にレコード・CD)を良い再生装置で再生することで十分可能です。ステレオ録音再生ですから、楽器が右にあるか左にあるかは分るでしょう。しかし、奥行きはどうでしょう。

 実は、これも脳が聴き分けているのです。ですから、そのような生の演奏を聴いたことがないひとには分りにくいのがこの「音場」再生です。もちろん、音楽ではなくても、普段私たちは町の中で四方八方から耳に入ってくる音を聞き分け危険を察知しています。爆発音や落雷の音が聞えても遠くか近くかで体の動きも違うはずです。ですから、生演奏を聴くことだけが「音場」再生の訓練となるわけではありません。

続きます。