takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

ハラールとハラーム-5・インドネシアでの味の素事件

 今回は、2000年~2001年に発生した「インドネシア味の素」つまり、日本の大手食品メーカ味の素の現地法人のハラール違反事件をご説明します。

 事件の概要は、「インドネシア味の素」が同社の調味料に豚肉の成分が使われているにもかかわらず、ハラール表示をしていたため表示法違反となり、商品の回収と日本人役員ら6人が逮捕されたというものです。

 以前書いたことですが、インドネシアは、人口2億4000万の大国であり、その76.5%1億8600万人がムスリムイスラム教徒)です(一説では87%がムスリムとも言う)。その世界最大のイスラム教徒の国でハラール表示をした調味料に本来禁止されている豚肉の成分が入っていたと言うのですから大変です。しかし、味の素がそんな簡単なミスを知らずに犯すはずはありません。材料として豚の成分を使用してはいなかったのですが、発酵菌の栄養源を作る過程で触媒として豚の酵素を使用していたのです。ですから、製品から豚の成分が検出されるということはありません。とは言え、豚と一緒に保管されたり触れたりした食品も禁忌とされるのですから、インドネシア当局から触媒であっても認めないとする厳しい判断が下されました。

 2001年1月3日,日本の大手食品メーカ一味の素の現地法人「インドネシア昧の素」に対して、インドネシアの社会保健省は「製造過程で豚の酵素が使用されていたのは、イスラムの教えに反し、消費者保護法に違反する」として、化学調味料の回収命令を出しました。2日後の5日には、同社は全製品の回収をはじめたのですが、 6日までに東部ジャワ州モジョクルトの製造工場担当の日本人役員ら6人が逮捕される事態となりました。この事件は, 1969年以来インドネシアに進出し、化学調味料のシェアで同国の圏内トップを誇っていた昧の素のみならず、現地の日系企業にも衝撃を与えました。もちろん、その後、味の素は触媒を変更することで再度、販売の許可を得ています。

 製造工程内での、触媒についてもう少し詳しく見てみましょう。

 昧の素の主成分であるグルタミン酸ソーダは、糖蜜やでんぷんを発酵させてつくられます。発酵菌の栄養源となる培地として、米国から輸入された大豆分解物が使用されていました。その大豆分解物を作るために豚の酵素が使用されていたのです。ですから、「インドネシア味の素」自体はその酵素も使用していません。同社は、1998年9月まで牛のタンパク質を使用していたのですが、「より安全に」という判断で大豆タンパク質つまり植物性に切り替えたようです。

 繰り返しますが、「味の素」の原料に豚の成分を使っていたわけではありません。発酵菌の栄養源をつくる過程で、触媒として豚の酵素が使われていただけなのです。このため、インドネシア、ガジャマダ大学薬学部のウマル ジェ二一教綬のように「最終製品に含まれているわけではないのだから問題はない」と擁護してくれた現地の学者もいます。

 

 この豚を禁忌する思想は、これから始まるかもしれないiPS細胞を使った再生医療にも大きな影響を与えます。明日は、その説明をしましょう。