takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

原子力安全委員会と原子力安全・保安院-1

原子力事故の話に戻ります。

 

 ここで書いている記事は、5つの報告書を精査しレポートに纏める中の一部です。全て書くことはできないのですが、原稿料が入る訳ではないので半分以上は公開しています。ただ、話があっち、こっちに飛ぶためブログの読者の方には申し訳なく思っています。いつか、編集しなおして1本の記事にしてダウンロードできるようにしたいと考えております。それまでは、福島原発の事故に関する雑学と思って読んで下さい。今日と明日は、なくなってしまった二つの組織のお話しです。

 

 その二つの組織とは、「原子力安全委員」、「原子力安全・保安院」です。

 

 1955年12月、原子力基本法が成立しました。この法律に基づき国の原子力政策を計画的に行うことを目的として1956年1月1日に総理府の附属機関(のち審議会等)として原子力委員会が設置され、委員長には国務大臣科学技術庁長官)が充てられました。この委員会は、原子力の推進側だけの政治家・官僚を集めほとんどの場合非公開での会議を開催していました。

 

 1978年、原子力の安全確保の充実強化を図るため、原子力基本法の一部を改正し、上記原子力委員会から分離、発足したのが原子力安全委員会です。表向きは国家行政組織法上の第8条審議会と同等の機能を有しているのですが、あくまで表向きです。原子力安全委員会の職務は原子力の研究、開発および利用に関する事項のうち、安全の確保に関する事項について企画し、審議し、および決定することでした。

具体的な役割については下記の通りです。

 

  1. 原子力利用に関する政策のうち、安全の確保のための規制に関する政策に関すること。
  2. 核燃料物質及び原子炉に関する規制のうち、安全の確保のための規制に関すること。
  3. 原子力利用に伴う障害防止の基本に関すること。
  4. 放射性降下物による障害の防止に関する対策の基本に関すること。
  5. 第一号から第三号までに掲げるもののほか、原子力利用に関する重要事項のうち、安全の確保のための規制に係るものに関すること。
  6. 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」について経済産業大臣に意見を述べること。
  7. 核燃料物質の関連事業を行おうとする者の指定や許可について担当大臣に意見を述べること。
  8. 原子力緊急事態宣言の解除について内閣総理大臣に意見を述べること。
  9. 原子力緊急事態宣言の技術的事項について原子力災害対策本部長に助言すること。
  10. 原子力防災管理者通報義務や原子力緊急事態宣言の政令の制定や改廃について主務大臣に意見を述べること。
  11. 定期報告を受け、災害防止のために必要な措置を講ずるために担当大臣に意見を述べること。
  12. 定期報告に関して原子力事業者等の調査をすること。

 

 ずいぶんと、色々ありますがどれも意見をのべるだけで業者を直接規制することはできません。東京電力は(他の電力会社も)、安全委員会の意見に対し有り難いお言葉と聞いておけば良いのです。また、メンバーは、常勤で5名いずれも原子力の専門家です。

 

 では、実際に電力会社の原子炉に対し規制・監視・管理を行っていたのはどこでしょう。それが、経済産業省の外局である資源エネルギー庁の特別の機関、原子力安全・保安院です。任務しては、原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに発電用原子力施設に関する規制その他これらの事業及び施設に関する安全の確保に関することでした。保安院は、業者に対する規制の権限を持っていますから、電力会社は保安院に対しては頭が上がりません。抜き打ち監査なども行います。

 

 しかし、こちらのメンバーは、経済産業省のお役人であり原子力の専門家ではありません。また、資源エネルギー庁の内部組織ですから原子力だけではなく、電力、都市ガス、高圧ガス、液化石油ガス、火薬、鉱山関係の施設や産業活動の安全規制、保安を所管し、これらの施設に対しては必要に応じて、立入検査、報告徴収、改善命令等を行うことができました。

 

 また、恒例ですが、地位の上の人は退官後電力会社へ再就職しています。抜き打ち監査の情報などは、この再就職した元保安院のお役人に入りますから電力会社へは筒抜けです。抜き打ちは、あくまでも表向きです。さらに言えば、X線カメラを使用した通常の監査では、カメラを設置する位置まで事前に情報を貰っていたようです。電力会社にしてみれば自分たちで事前に写して問題があれば装置の向きを変えてヒビ等が写らないように設置しておけば良かったようです(これは、福島第二原発の内部監査員から直接聞いた伝聞です)。

 

明日に続きます。