takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

技術者倫理・チャレンジャー号の爆発事故とシティコープタワーの倒壊回避-3

 事故を避けることができなかったチャレンジャー号のボイジョリー氏と、ビルの倒壊を防ぐことができたルメジャー氏の違いはなんだったのでしょう。結論から言うと、情報の伝達能力です。要点をまとめ、客観的データを揃えて伝えるべき人に伝える能力、二人の決定的な違いはそこにあります。

 

 もちろん、立場の違いもありました。モートン サイオコール社のエンジニアで大きな組織の会社員だったボイジョリー氏とハーバート大学で建築学の教鞭を執る独立自営の建築士だったルメジャー氏を同列で比較するのは酷かも知れません。しかし、それでも二人の行動を比較すると、ことを上手く運んだルメジャー氏と客観的データを集め比較することすら上手くできなかったボイジョリー氏の姿が現れてきます。

 

 ルメジャー氏は、大学生からの質問に関心を持ち自分で耐風力を計算してみます。計算の結果耐風力が不足しているかもしれないと考えるのですが、すぐに騒ぎ立てることはせず、その道の専門家に事情を説明し協力を仰いで計算に間違いがないか確認しています。その後、客観的な立場から意見を述べられる構造建築の専門家を招聘し、顧客であるシティコープ側への説明方法も考えています。もちろん、資金面で保険会社と相談し法律面でも弁護士に協力を要請しています。シティコープの副社長と面談した時点で、ビルの補強に掛かる日数、資金、方法は全て分かっていた訳です。これなら、大抵の経営者はルメジャー氏を信じて補強工事に協力するでしょう。

 

 反対に、ボイジョリー氏はどうでしょう。先ず、肝心の温度と燃料漏れの因果関係を定量的に示すことができませんでした。発射前日に行われた、MASAとモートン サイオコール社のテレビ会議でも危険だと騒ぐだけでどの程度の気温でどれくらい燃料漏れがあるのか聞いている方はさっぱり分からなかったと言うことです。また、これは後で分かったことですが、NASAもOリングのシール性能に関しては疑問を持っていました。Oリングが二重になっていたのもそのためです。なにしろ、事故の3年後スペースシャトルは再び宇宙へ向かいますが、Oリングの対策は三重にすることでした。しかし、この時はその危険性を周囲の人、発射計画を変更する権限を持つ人へ伝えることができなかったのです。ここが、ルメジャー氏との大きな違いです。

 

 私は、工場に勤務しています。経営者ではありませんが、40名程度の小規模工場の責任者です。日々、業務を行っていて痛感するのは情報を正しく伝え理解させるのは本当に難しいということです。理解させて行動させるのはさらに難しいことです。このブログは、若い理系の方が良くご覧下さっているようですので申し上げます。ご自分の専門の勉強をするのと同じ労力を使って、伝える力(書く・話す両方)のトレーニングをして下さい。プレゼンテーションだけではありません。伝える力全体を磨いて下さい。若いときにやっておけば一生使える宝物になります。