takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

技術者倫理

 別に理化学研究所に絡めているわけではありません。技術者倫理の文献にしばしば引用されるビデオ教材に「ギルベイン ゴールド」と言う架空の物語があります。これは、全米プロフェッショナル エンジニア協会によって製作された学生の教材となるビデオです。この物語で取上げられているのは「内部告発」ですが、それはおおよそ次のようなお話です。

 

 ギルベイン市は、税の優遇政策によって、コンピュータの部品を製造しているZコープ社の工場を誘致しました。Zコープ社は、製品製造によって生じる鉛と砒素をギルベイン市の下水道へ放流しています。一方、ギルベイン市は、「水処理後に得られる汚泥から農業用肥料を作り、それを「ギルベイン ゴールド」という商品名で販売しています。この「ギルベイン・ゴールド」の汚染を防ぐためにギルベイン市は、 下水道に放流できる鉛と砒素の量に制限を課しています。

 しかし、それは次の点で欠陥のあるものでした。まず、排水の規制が、総量規制ではなく濃度規制であるという点です。つまり、放流される鉛と砒素の総体的な量ではなく、排水中の鉛と砒素の割合が規制されているだけなのです。次に、ギルベイン市よって採用されている有害物質測定法の感度が低く不十分だという点です。

 Zコープ社の環境営業部に勤務している技術者であるデイヴィッドは、最新の測定法を用いた試験によって、Zコープ社が市の排水基準に違反していることを知ります。

 ディヴィッドは、汚染管理施設にもっと投資すべきことを、 上司や工場の副社長に訴えます。しかし、彼らは、その費用が受け人れがたいほど高額になると考えています。彼らは、従来の測定方法で市の規制に反していないことを理由に、デイヴィッドの訴えに耳を貸そうとしません。デイヴィッドはこの件について他の人に相談します。最終的に彼はテレビのレポータに内部情報を提供することになります。ビデオでは、内部告発をしてしまったことでこれから自分に降りかかるであろう試練に対して恐れを抱いているデイヴィッドの姿が描かれて終わります。

 

 この物語では、技術者がテレビに内部告発してしまいました。しかし、その行為によりディヴィッドは、減給・降格・解雇などの制裁を受けるかもしれません。あるいは、アメリカのことですから、莫大な賠償金を支払わせられて会社が倒産するかもしれません。倒産すれば、ディヴィッド自身も職を失いますし、仲間や同僚、部下達も職を失うことになります。ですから、この教材を使って、デイヴィッドは本当に内部告発をすべきだったのでしょうか、別の選択肢はなかったのだろうかということを問題として、学生達にグループディスカッションさせます。また、こうした困難な状況は決して非現実的なものではなく、程度の差こそあれ、技術者であれば誰もが直面しうる問題であると言えるます。実際、日本ではミートホープ事件がありました。来週は、そのミートホープ事件について述べます。