takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

典型的なヒューマンエラー・和歌山の化学工場でトルエン200リットルが流出

1998年(平成10年)7月13日、和歌山県にある化学工場で、濃縮釜からの液抜き出し作業中に間違えたカップリングを開放してトルエン200リットルが漏洩した。報告書にはカップリングの離脱位置を間違えた作業員の単純ミスが原因とされている。しかし、ストップバルブを挟んで二つのカップリングがそれほど離れておらず,誤操作しやすい位置にあったのではないか。また,ストップバルブの上流にカップリングを取り付ける構造は望ましくなく、何か特別な事情が有ったのだろうか。人間はミスを犯すものであるという原点に立ち返った安全対策が取られたのであろうか。

 

経過

定期点検整備のため合成香料製造装置の製造ラインを順次トルエンで洗浄していた。濃縮釜の洗浄を終え,濃縮釜からステンレス製ドラム缶にトルエン洗浄液を抜き取る作業をしていた。ドラム缶が満タンになったので、ドラム缶を交換しようとした。抜き取り用のホースを外すときに誤ってストップバルブの上部のカップリングを外したため洗浄用のトルエン約200Lが漏洩した。

 

原因

ストップバルブの下部のカップリングを外してホースを結合すべきところ,ストップバルブの上部のカップリングを外した。

 

対処

吸着マットによる回収,固形物のドラム缶への回収

 

対策

1.安全教育の徹底をする。

2.安全活動の見直しをすべきである。本来は、軽微な作業とはいえ危険物を扱う非定常作業であるので、危険予知活動(KY)やツールボックスミーティング等で事前に現場的に危険の洗い出しをすべき作業である。

 

背景

簡単にヒューマンエラーと片付けられる事故ではある。しかし、誤操作しやすいカップリングの位置と誤操作防止の対策の検討不足が基本要因であると考えられる。

 

//// ここまでは、失敗知識データベースから省略・加筆して転載した。

 

ドラム缶1本分のトルエンが流出しただけの事故である。拭き取り作業を行って終了。「だから、何に」と思われるかもしれない。しかし、ほとんどの事故は、上記のような単純な人為的ミスから生じるものである。本件のように操作すべきバルブと操作してはいけないバルブがすぐそばにあると事故に繋がると言うことを記録しておきたかったのである。チェルノブイリの原子炉事故でさえ、上記事故の積み重ねのようなものなのだ。

自分で行った実験ではないが、中央労働災害防止センターの講習で教わった実験データ。1番~7番の番号が振られたランプが点滅したら、その番号をノートに書く。ランプは机の上に置かれたボックスに順番に並んでいる、被験者は10名。

非常に簡単な実験である。こんなもの、間違う人はいないだろうと思われるかもしれないが、1人300回行うと、10名の平均で4.2%の間違いが生じたとのことである(書き間違いに気付いても修正はできない)。点滅したランプの番号を記入するだけの作業でさえ、延べ3,000回行うと126回も間違えているのである。ところが、この同じ作業を指差し呼称を行いながら記入すると、間違いは0.1%つまり延べ3,000回中3回に減ることが分っている。

駅員さんが行っている、指差し呼称がそれほど重要なことだとは、12年前に講習を受けるまで知らなかった。上記事故が発生した工場では、バルブにはなんの表示もなかったらしい、恐らく指差し呼称も行われていなかったと思う。

 

蛇足

事故ではなく刑事事件だが、同じ1998年7月和歌山県では、毒物カレー事件が発生している。7月25日和歌山市の園部地区で行われた夏祭において、提供されたカレーにヒ素系の毒物が混入された事件である。