takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

営団地下鉄日比谷線での脱線事故

事故概要

2000年(平成12年)03月08日、営団日比谷線下り線の北千住発菊名行き8両編成列車の8両目車両が中目黒駅手前のカーブで脱線しはみ出した。そこへ下り線から軌道中心間隔3.5mの上り線を、東武鉄道の中目黒発竹ノ塚行き8両編成列車が走行してきて、5両目と6両目車両が脱線車両に衝突した。日比谷線の8両目車両の車輪がレールに乗り上がって脱線したと推定される。

この衝突で、死亡5名、負傷者63名の犠牲者を出した。 

事故詳細

9時01分、レール起点から18km340m付近の半径約160mの左円曲線に続く緩和曲線の始端付近(こう配上り35‰)を速度12-13km/h(推定)で走行していたところ、8両目(乗客数6名)の前側台車の全2軸が脱線し、18km390m付近に設置してある機材線用横取り装置(線路の保守を行なうための車両を留置場所から本線に引き込むための装置)リードレール部において、脱線した車両が進行方向にはみ出した。そこへ、下り線(A線)から軌道中心間隔の3.5mの上り線(B線)を走行していた東武鉄道の中目黒発竹ノ塚行き8両編成の第B801T列車が、乗客約1,000名を乗せて走行してきたため、5両目車両(乗客数約125名)の前部と6両目車両(乗客数約125名)の前部に日比谷線の脱線車両に衝突した。

これにより第A861S列車の8両目の車両および第B801T列車の5両目および6両目車両が大きく大破した。

衝突後、第A861S列車は車掌の非常ブレーキ操作により停止、第B801T列車は、5両目と6両目の間にあるブレーキ用空気管が損傷して自動的に非常ブレーキが動作して停止した。

車両の損傷状態に関して、第A861S列車の8両目車両の車体は、進行方向右側の端部より中央ドア付近までの側面が大きく損傷し、脱落していた。第B801T列車の5両目車両の車体は、前方右側の端部が損傷し、車両中央部のドア付近から車両の後端まで車体右側側面に擦傷跡があった。6両目車両の車体は前方右側の端部から最初のドア部までの側面が損傷脱落し、損傷端部がめくれた状態に大破した。また、4両目車両の後部、7両目車両の中央部から8両目車両の側面にかけて、わずかながら擦傷痕が見られた。5両目車両と、6両目車両の連結部については、車両の右側に位置する電気ケーブルおよび空気管の損傷、破損が見られた。

脱線した個所付近の進行方向右側のレール(曲線の外軌側レール)の上面には、18km333m付近から約7mにわたり、車輪のフランジによる走行痕が認められ、その脱輪位置よりも約1m手前にも短い痕跡が認められた。また、同じ落輪位置の内軌側のレールにも、短い痕跡が認められた。

   その因子として、脱線した車両は、

(1) 製造時における静止輪重の測定結果において、第1軸右側車輪と第4軸左側車輪の静止輪重が小さく、車両の体格におけるアンバランスを有していたこと

(2) 共用後、静止輪重の測定・調整等の管理が行なわれていなかったこと

(3) 事故発生後に行なった、他の同形式(03系)の車両の静止輪重の測定結果において、大きなアンバランスが計測されたこと

から、事故当時に第1車軸に大きな静止輪重のアンバランスを有しており、それが脱線に大きく影響したものと考えられる。

 その他の因子としては、以下のものが輪重の減少と横圧の増加を助長したものと考えられる。なお、これらには、現在の設計・保守に関する技術的評価では特に異常とみなせないものや、管理が困難なものも含まれており、また、各因子の脱線への影響度も一律ではない。

・ 脱線個所付近の車輪・レール間の摩擦係数が事故発生時刻に増大したと推定され、それが横圧の増加をもたらしたこと

・ 当該車両の空気ばねの台車転向に対する剛性、台車の軸ばねの特性が、横圧の増加及び輪重の減少に影響したこと

・ 摩耗・損傷等の軽減を目的として研削されたレールの断面形状が、当該車両の踏面形状との組み合わせにおいて、横圧の増加に影響したこと

なお、輪重減少や横圧増加に直接影響を与えたものではないが、研削されたレールの断面形状では、車輪踏面がレールから浮き上がった場合に、新品レールに比べて少ない浮き上がり量で車輪がレールに乗り上げることから、この断面形状は、脱線の限界値にも影響を与えた因子と考えられる。 

 

//// ここまでは、失敗知識データベースから省略・加筆して転載した。

 

地下鉄の死亡事故は、これが初めてのことだと思う。40年以上死亡事故がない交通機関は数少ないと思う。また、事故原因も複数の因子が競合し事故になったというもので、保安管理者も不起訴となった事故である。

また、この事故が法改正を促し航空・鉄道事故調査委員会発足の契機にもなっている。

もう一つ、この事故は5名を犠牲にした重大な事故であるが、鉄道保安管理上の資料として研究材料になっている。鉄道の法規制・管理技術の両面から精密に調査・研究され2度目が発生しないよう事故を活かして欲しい。