takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

シャーロキアンのシャーロックホームズ:第14弾『バスカヴィル家の犬』

これまで、シャーロック・ホームズシリーズ60作の内、有名な作品を選んで感想のようなものを書いてきました。今回の14作品目で一応、終了です。また、時間を空けて他の作品も紹介するかもしれませんが、ここまでで一度終了します。

長い間、ありがとうございました。

最初の「まだらの紐」は2月3日に公開しましたから、4ヶ月半掛かったことになります。

takumi296.hatenablog.com

この少し前から小説も書いていました。

さて、今回の『バスカヴィル家の犬』ですが、少し趣向を変えて読んでいます。

 

何をしたかと言いますと偕成社版の児童書にて、「バスカビル家の犬」を読んでみましたのです。
この「新たな試み」のきっかけは、子供の頃の読書経験を、追体験したかったからです。―ポプラ社の「少年探偵団」シリーズ―
あの硬い表紙―手に持つと、子供にとってはその重厚感がいい―を開くと、明智小五郎と少年探偵団が、怪人二十面相と死闘を繰り広げる。ドキドキして読んだ方も多いと思います。裏表紙は、明智小五郎の有能な助手・小林少年が、弁当箱のような大きいトランシーバーを持ち片膝ついて、秘密の話をしている挿絵。江戸川乱歩推理小説は、ミステリアスで「大人の読者へパスポート」でした。

『バスカヴィル家の犬』。偕成社版であっても、当時のドキドキ感が蘇り、児童書であっても、大人も十分に楽しめます。なんといっても、数は多くないのですが、挿絵がいい。効果的に配置されています。ポプラ社の「少年探偵団」シリーズもそうでした。推理小説なので、子供にはちょっと怖く、恐怖感をあおるものでした。
P28の挿絵は、『バスカヴィル家の犬』の魔犬伝承物語を説明したもの、その物語のハイライトは、以下のように訳されています。

「三人の酔漢の頭髪もさかだつ恐怖は、娘のむくろにあらず。(中略)おぞましき巨大なる黒き獣の、ヒューゴーのむくろにおおいかぶさりて、のどにくらいつくを見たるがゆえなり。ヒューゴーののどを食いやぶりたる魔性の犬は、らんらんたる目と血のしたたる牙を三人にむけければ、彼ら、おののき悲鳴をあげて荒野を逃げもどりぬ。ひとりは、その日のうちに息たえ、ふたりは息あるも狂人となりしとぞ」。(「バスカビル家の犬」コナン・ドイル著、各務三郎訳、偕成社P28より)
陰鬱な挿絵に、時代がかった各務三郎さんの名訳が、相乗効果を呼び、大人の私でも十分に恐ろしい内容になっています。「大人の読者へパスポート」を手にしたばかりの子供には、恐怖そのものでしょう。
魔犬伝承物語もそうですが、「恐怖への強力なスパイス」は、舞台設定です。

「最後の事件」(1893年)以来、約8年間もの間、ドイルは、ホームズを墜落死させたままでしたが、以下の取材旅行をきっかけに、ホームズを蘇らせたのです。
「ジャーナリスト、フレッチャー· ロビンスンから、彼の故郷デボン州ダートムーアに伝わる魔犬伝説をききました。それは1901年3月のことでした。(中略)彼は、その月のうちに、フレッチャーといっしょに取材旅行にでかけました。(中略)
怪奇小説がすきだったドイルは、暗い幻想的なダートムーアの風景に惹かれました 丘 の斜面にある石器時代の住居跡、岩石が露出する起伏のはげしい荒野、プリンスタウン刑務所、グリムズパウンド沼…こうした背景から、本書でワトスン博士が描写するような馬をのみこむグリンペンの大沼や、脱獄囚がひそんだり、魔犬が跳梁する荒野が、生よれたのです」。(同書、P331)
何とも不気味な舞台設定が、『バスカヴィル家の犬』の恐怖をあおります。

大人になり、文庫本になじんできましたが、たまには、児童書にて、切り口を変えて読むと、「童心に帰った恐怖感」を味わえました。  
このように考えると、どのような読み方をしても「ホームズ物はいつも楽しめる」といえます。

ウィキペディアから、お借りましした。原作が発表されたときの本の挿絵です。

<予備知識>
コナンドイルは、1893年に発表した「最後の事件」で一度ホームズを葬っています。
それから、8年ぶりで発表された新作が『バスカヴィル家の犬』(1901年発表)でした。
ドイルは、ホームズという役者がすでにいるのに、「新しい役者を用意する必要もあるまいと思った」と語っています。
しかし、この作品はホームズがライヘンバッハの滝へ転落する以前の事件を書いたものであるため、書店に押し寄せた読者は失望させられることになりました。
ホームズが本当の意味の生還を遂げるには、読者はもう数年を辛抱しなくてはならなかったのです。(1905年発行の第3短編集まで