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takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

あの頃は燃えた、熱かった『日本オーディオ界』の70年代、80年代-12

 新年ですから再び基本的なところから始めます。

 良い再生装置とはどんな再生装置でしょう。もちろん、これは人によって異なりどれが正解ということはありません。人によって好みの音楽も異なります。原音に忠実な再生いわゆる「HiFi」と言ったところで、原音の定義があいまいな音楽もあります。シンセサイザーミュージック、コンピュータミュージックなどはその代表です。

 オーディオに目覚めた中学時代、私は従兄弟に借りたオープンリールデッキに2本のマイクを差し込んで野外のステレオ録音を楽しんでいました。電車の音、自動車の走る音、救急車両のサイレンの音です。ドップラー効果が再生装置で綺麗に聴こえたときは何とも言えない楽しさと嬉しさを感じることができました。

 同じ音を何度も録音しマイクの距離を変えて試したり、パトカーや救急車との角度を変えて録音しました。音が空気の振動であることを実感しながら録音と再生を楽しんでいたのです。

 録音したオープンデッキで再生すると生の音に近い再生音を聴くことができるということも、この頃実感として理解しました。どんなに優れた機器を使っても、テープに録音した音楽を編集してマスターテープを作成し、以下の工程を踏んで作られたレコードは途中で音質が変化することを防ぐことはできません。「良い音」を聴くためには、素材選びから始めなければならない。録音と再生は一体ものであることは、常識なのですが、オーディオメーカはそんなことは言いません。

 今、レコードが静かなブームになっているそうです、折角ですからレコードの製造過程を紹介しましょう。

 

1)音を原盤「ラッカー」(lacquer)にカッティング。これは表面が柔らかい原版に凹型の溝を切る工程です。ちなみに、ダイレクトカッティングという製作方式はここから入ります。言い換えると、テープに録音しません。

2)「ラッカー」そのままでは耐久性に乏しいので、表面に銀メッキを施します。

3)銀メッキを施したラッカーの上に、ニッケルメッキを厚く施した上で剥離します。すると、凹面に塗った物の反対ですから、出来たものは凸型の金属盤となります。これが「メタルマスタ」(metal master)で、保存用のマスターディスクになります。これも、ちなみに銀メッキの厚さは1マイクロメートル、ニッケルメッキは1~2マイクロメートルあります。

4)昔、海外アーティストのレコードを売るとき、よく「メタルマスタ」「メタル原盤」輸入と書いてあったのは、この保存用マスターディスクを版元から購入したということです。しかし、ラッカーにメッキして作る訳ですから、メタル原盤は1枚ということはありません(数枚作れます)。

5)ここが重要工程です。「メタルマスタ」に銅メッキを施します。剥がすと凹型の「マザー」(mother) ができます。これが生産用のマスターディスクになります。

6)「マザー」にニッケルやクロムで更にメッキを施し剥がし、凸型の「スタンパ」(stamper) を作ります。そのスタンパでレコードの素材をプレスするとレコードが出来上がります。ただし、そのままではビニールが外側にはみ出していますから、はみ出した部分はカットして綺麗な丸い円盤にして完成です。

 これだけの工程を踏むため、音キチのマニアは、レコードのスタンパ番号を気にしてレコードを購入していました。スタンパは消耗品です。プレスの型が摩耗するのと同じでレコードを何枚もプレスしたスタンパは、高域特性の悪いレコードを生み出すことになります。レコード会社は、音が悪くなる前に交換していると言いますが、厳密には1枚づつ音は異なるのです。私も、狂っていましたが狂い出すとどこまでも追求したくなるのがマニアなのです。

 レコードの溝は微小な溝です。それを合計3回もメッキと剥離を繰返しプレスの型を作って塩化ビニールを押しつぶしてできあがるレコードはやはり原音と比較すると多くの情報を失っています。残念ながら事実です。特に、微細な振動の高域は影響を受けるためレコードに記録するときは高域を大きくして記録しました。レコードの音を生で聴くと高い周波数の音が耳に障るのはそのためです。音を大きく録音して小さく再生すれば計算上は元の音です。しかし、残念ながら100%とはいきません。