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takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

今年読んだ本の傑作『亡びゆく言語を話す最後の人々』(この本は良い)-2

書評

 現在世界に存在する言語の数は千数百とも数千とも言われています。1939年にアメリカのL.H.グレイは2796言語と言う説を発表しました。続いて、ドイツのマイヤーが1979年に4200から5600言語と発表しています。さらに、三省堂言語学大辞典・世界言語編では8000超の言語を扱っています。
 もっとも、少し考えれば分りますが、正確に数えることはほぼ不可能です。似ている言語なのか同じ言語なのか簡単には判別のつかない場合はいくらでもあるからです。基本となる言語に方言があり、方言の距離が大きくなると別の言語になります。
 しかし、前述した程度に言語の種類は数えられていると頭に入れておくのは良いと思います。

 この本『The Last Speakers』の著者ディヴィット ハリソンは絶滅目前の言語を記録するためにパプアニューギニアからシベリア、モンゴルの奥地と世界中の僻地を訪れています。グローバリズム化が進む中で少数民族の言語が失われようとして行く。そんな言葉が失われてはならない理由を愛情と敬意を持って伝えています。言語学というよりも文化人類学に近い感じを受けますが、筆者は紛れもなく言語学者なのです。
 筆者ディヴィット ハリソンは、「最後の話者たち」の言葉を訪ねて僻地へ赴き、長時間にわたるインタビューや話し合いの中でその言語を記録する作業を続けてきました。
 なにしろ、数千ある言語のうち70~80%は正確に記録されていないのです。つまり、何が失われつつあるのかすら実際には分っていない。また、失われつつある言語は僻地に集中している訳ですが、筆者はその場所を「言葉のホットスポット」と呼び世界中にある「言葉のホットスポット」を訪れているのです。
 極限の自然の中で暮らす少数民族は、自然界に対し敏感な感性を持っています。まさに、自然界について人類が持っている豊かな智慧(ちえ)が、彼らの話す言葉の中に込められているのです。ですから、少数のもの達が話す言葉の消滅を僻地に住む少数民族が滅んだだけと済ませることはできません。極限の自然の中で育(はぐく)まれてきた彼らの言語の消滅は自然に対する智慧の消滅です。
 ベーリング海を挟んで、アラスカ州西南部とロシア極東最東部のチュクチ自治管区にかけて住んでいるイヌイットにユピク族という少数民族がいます。著者ディヴィット ハリソンによれば、彼らは少なくとも99種類の海氷の形状を識別し、それに呼称を付けています。さらに、風、海流、星や天体など、あらゆる種類の季節現象にも名前を付けて生き残るための情報として活用しています。ある現象を言い表す単語が違うということは、その現象に対する取るべき態度も異なる訳です。これらの情報を統合的に活用することで、彼らは優れた天候予測能力を保持しているのです。
 それぞれの言語には、地形、土地固有の種、気候パターンや植生サイクルなどの環境要素についての特別な情報が(その地域固有の)、独自の形で文法や語彙に織り込まれています。繰り返しになりますが、それらが消滅するということは、自然界について人間が持っていた知恵も同時に消えてしまうことを意味します。
 他にも。ボリビアのカラワヤ族のもつ薬草にかんする驚くべき知識。シベリアのトファ族がトナカイの群れを識別するときの魔法のような呼び名など、無学な私が知らない話で満載の本でした。
 この本は、間違いなく今年読んだ本の中で最高の本です。