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takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

倫理問題を考えよう:トリアージ問題

日常 書評 資格・試験

トリアージ?」何だそれ、と言うのが普通の人の感覚でしょう。少し無理矢理日本語に直すと、「識別治療」が近いと思います。要するに、一度に大勢の患者が病院に搬送されその処理能力を超えた場合、見た目で軽傷の人は放っておく、重傷の人を優先して治療する。ただし、その代わり軽傷と思われた人が予想以上に重傷で気がついたら死んでいたということもあり得る、ということです。

 大規模災害が発生した場合に起こりうることであり、阪神淡路大震災東日本大震災を経験した人は大病院の処理能力がそれほど大きくはないことを肌で感じていると思います。大きな病院であっても、外来急患に対するキャパシティはほんの僅かです。これも、よく考えれば当たり前です。ベット数1000以上の大病院で入院患者は100人しかいませんという状態なら、急な怪我人が来ても相当数対応できます。しかし、そんな病院がもしあれば倒産しています。

トリアージ問題」と言う言葉は、1800年代のフランス軍の衛生隊が始めたようです。野戦病院での緊急システムとして、ドミニク ジャン ラレィという軍医が考えました。それ以前の戦場医療は、患者の身分や社会的必要性で選別され、重傷度に関係なく身分の高い貴族から優先して治療されていたのです。ラレィは、フランス革命後の数々の戦争で、戦傷者を身分に関係なく医学的必要性だけで治療の優先順位を決め、身分で差別することはありませんでした。

 フランス革命により民主主義が誕生した事で、身分に関係の無い純粋に医学的必要性のみによる治療の選別が始まったのです。さらに、フランス革命からナポレオン戦争の時代になるとトリアージの意味は少し変化します。それは、軍事的必要性で選別する方式へと変質しました。現代では恐ろしいことですが、重傷者は見捨てられ、兵士として戦線復帰が可能な者に医療資源を投入して早期の戦力回復を図るようになったのです。軍事的必要性の高い人物に医療資源を集中して軍事、社会システム全体の維持を図る全体主義的差別型トリアージです(これも功利主義です)。1853年~1856年のクリミア戦争(フランス、オスマン帝国、英国などの同盟軍とロシアの戦い)ではトリアージで重傷者と判定された患者が悲惨な扱いを受け、満足な治療を受けられずに不衛生な重傷者用野戦病院で次々と死ぬ事態になりました。この戦争で識別治療を止めさせ、全ての患者を救う努力をしたのがナイチンゲールです。

 ニュースには、なりませんが現代日本でもトリアージ問題は大小様々な形で発生しています。どこまで、備えておくべきなのか、全員の合意を得ることはできませんが、話し合いは事前に行うべきです。