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takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

エンジニアは、哲学の夢に魘(うな)される-4

書評 日常

 最初は古代ローマ帝国の政治家マルクス トゥッリウス キケロ(紀元前106年1月~紀元前43年12月)です。日本では単にキケロまたは、キケローと呼ばれることが多いと思います。

キケロは、ラテン語散文の名手と評価されており、その完成者といわれています。その著作は多岐にわたり、演説や書簡でも知られています。政治家としては失敗も多く、あまり評価されていませんが、文筆家、文学者としての評価および政治思想家としての評価は定まっており、今日でも注目されています。

 キケロは、共和制の信奉者でした。そのため共和政の範囲内でローマ社会の改革を企てており、『国家論』『法律』『義務について』の中で、第一人者(プリンケプス)の指導により元老院と平民との融和を図りました。更にローマ法についてもギリシア哲学を基に今までの事例中心だったローマ法を体系的に再編成する等の作業を通じ、共和政の中身を改革することを政治課題としていました。ヨーロッパでは、今でも研究されているようです。しかし、日本では岩波文庫で数冊出版されていますが、絶版になっているものも何冊かあります。ですから、「キケロ」と言う変な名前は知っていても、あるいはローマ時代の哲学者?とぼんやり覚えている人もその著作を読んでいる人は少ないだろうと思います。

 岩波文庫からは、「キケロー選集・全16巻」が1999~2002年に発刊されましたが、さすがにこれは持っていません。私が持っているのは、中央公論社の「世界の名著・第13巻」(キケロエピクテトスマルクス アウレリウス)と、岩波文庫の数冊です。今回の「義務について」はその中の1冊ですが、今は絶版です。中古で買おうとしてもアマゾンでは4,250円もしますから、読みたい方は図書館の方が良いでしょう。少し大きな図書館なら間違いなく置いてます。

 その「義務について」です。

「哲学は全領域が肥沃で実り豊かで、あり、どこをとっても未墾地や荒野はないけれども、どこよりも多産で滋養に富むのが義務について問題とする部分である。義務こそ節操のある立派な生き方を教える源泉だからである」。

 キケロの言葉です。政治家ですから義務という言葉に重きを置いています。今なら嫌われるかも知れません。

 キケロがこの「義務について」の中で言いたかったことは、正しい行いは、有益であり有益なことと正しいことは分けて考えられるものではない、と、いうことでしょう。ですから、キケロプラトンのこの言葉を賞賛しています。「正義からかけ離れた知識は、知恵というよりはむしろ校滑さと呼ばれるべきである」。

 キケロは、「義務について」の中で何度も有益なことをするためには正しいことを犠牲にせざるを得ないときがあるという考えに反論しています。その思いが強すぎて少し無茶な言い方もあります。例えば、徳にかなうものは全て有益で、特にかなわないものは、全て無益であるというようなことも書いています。私は、矛盾することはいくらでもあると思っているので、キケロのように自信満々にあっさり書かれると「そんな簡単じゃないだろう」と思ってしまいます。まあ、キケロが好きな人は、少し無茶ぶりするキケロのそんなところが良いのでしょう。

 一方、技術者倫理を考えるとき、キケロの考え方はどうしても学んでおく必要があります。やはり、義務、社会、公衆の安全と言ったことを考える際、キケロのぐらいまで遡って調べておかないと「この考えの元は何か?」と分らなくなるからです。今回、エンジニアが読むべき哲学の本12冊の中に古代社会の政治家の本を入れたのもそのためです。文庫本で360頁ありますが、繰り返しも多いので途中少し飛ばして読めば数時間で読めます。翻訳の文章は少し堅いですが、難解な本ではありません。ただ、この本を読む時は、「知識」「知恵」「知能」「知性」という言葉をしっかり定義して分けて考えるようにしないと途中で混乱します。原文はどうだか分りませんが、翻訳文では言葉の使用方法が分けられていません。以下、私の分け方ですが、「義務について」の翻訳とは一部合いません。

 

キケロと直接関係ありませんが、参考のため載せます。正解はありませんからそれぞれご自身で定義して下さい)。

知識:知っていること、データ、事項など。人間は知識の量ではコンピュータにかなわない。

知恵:知識を使って応用・推察できる力、これはまだ人間の方が上だと思う。あるいは、応用能力=知恵と言っても良い。知識として知ったことを自分の別な言葉で説明できて自分の行動に活かすことができれば知識⇒知恵となったこととして良いと思う。

知能:人工知能の言葉にあるように計算能力とか、論理的な思考能力。これも、人間はコンピュータにかなわい。知能指数のようにある基準を使って測定し判定することができるのが知能の特徴(学業試験・テスト等)。

知性:推理、発想、想像力を含み、解答のない問題を考え続けられる力。コンピュータには、今のところないと思う。あるいは、物事を多面的に見よう、考えようとする力、疑問に思う力。エンジニアにはこれが必要。