takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

やはり、今の私には『失われた時をもとめて』は長すぎました

 もう一度、読み直そうと思ったのですが挫折しました。私も、小説と同じように回想しながらこれを書きます。

 

「長いこと私は、早くから床についた。時には、ろうそくが消えるとすぐ目が閉じてしまって、ほら眠るぞ、と思うひまもないほどだった。そして、半時間もすると目が覚めるのだった。」

 

 有名このの書き出しは、半眠状態の長い描写を導入します。そして、この段落の末尾がこれから始まる長い作品全体の形式を要約しています。「たいていはすぐにまた眠り込もうとはしなかった。夜の大部分を回想で過すのだった。コンブレーの大伯母の家でのわたしたちの生活、パルペック、バリ、 ドンシエール、ヴェユス、それからまたほかでの生活を思いおとし。 さまざまな場所やそこで知った人たち、その人たちについて自分で目撃したこと。 話しに聞いたことを思い出すのだった。」

 

 こんな、感じで記憶をたどりながら延々と回想が続くのですが、記憶で書いてあることが写実的でしかも、年代順に正確に並べられています。そのため、このあと続く「意識の流れ」つまり、『ダロウェイ夫人』:ヴァージニア ウルフや『ユリシーズ』:ジェイムズ ジョイス等の作品に影響を与えていると言われています。素人の個人的感想ですが、『失われた時をもとめて』が文学史上の高い評価を得ているのは、この独特の書き方にあると思います。ダロウェイ夫人にしてもユリシーズにしても「面白い」小説ではないと思いますが(面白いという方がいたら申し訳ないですが)文学史上はとても高い評価を得ています。この辺りも、小説から何を得るのかがキーワードになると思います。エンターテイメントと考えるなら上記の作品はどれも失敗作でしょう。

 

 

 第l巻「スワン家の方」の第1部「コンプレー」は、話者マルセルが、幼時に毎年数か月を過ごしたコンプレーの村(パリ西南約llOキロ。人口約3,200のイリエの仮名〉での、甘やかされた子供時代の幸福な思い出を中心としています。近所には、ときに訪問して来る教養の高い社交人スワンの家があります。スワンの父がマルセルの祖父の親友であったらしいのですが、幼いマルセルはスワンが素姓のよくない女オデットを妻にしたために社交界を閉め出されていることを聞き知ります。また、別の方角には、ゲルマント公爵家の中世さながらにいかめしい館があり、少年の空想をそそります。

 

 第2部「スワンの恋」は話者マルセルの生まれる前にさかのぼります。小説は、スワンを中心として、3人称体で展開します。スワンは、はじめ何とも思わなかったオデットに魅力を感じ、情交を重ね、冷たくされ、不実の証拠をつかみ、しかもなお、振り捨てられなかったのです。

 

 第3部「土地の名:名」で、冬のパリ、当時は公園だったシャン・ゼリゼで赤毛の少女ジルベルトに出会います。このスワンの娘にマルセルは子供じみた恋心をいだきます。

 

第2巻「花咲ける乙女らのかげに」の第1部「スワン夫人をめぐって」では、ジルベルトへのマルセルの恋が中心となっているのですが、妻オデットへのかつての情熱を忘れ果てているその当時のスワンも姿を現わします。この辺りが交互に行った来たりして少々分かりにくいのですが、映画では良く使われる技法です。恐らく、この『失われた時を求めて』が最初なのでしょう。

 結局、ジルベルトは、マルセルを離れ、マルセルもやがてジルベルトを忘れます。ここは、読んでいるとあっさりし過ぎているような気がします。

 

 第2部「土地の名。土地」。 2年後、ノル7 ンディの海岸バルペックで、一群の美しい娘たちに出会い、そのうちのアルベルチーヌ シモネに心をひかれますが、はぐらかされ夏中マルセルは娘たちのあいだで迷います(この頃は、少年時代であり同性愛者ではありません)。ゲルマント公爵の弟シャルリュス男爵、 そのおいであるサン=ルーと知り合い、友人となります。

 

 と、あらすじの様なものを書いてきたのですが、この作品に関してはあらすじを読んでも面白くも何ともありません。そもそもストーリーで読ませる作品ではないのです。ですので、時間と根気のある方は400字詰め原稿用紙で一万枚の『失われた時をもとめて』を読んで下さい。1万枚の原稿用紙を積み上げると高さ1メートルを越えます。一般的な小説は、原稿用紙で250~300枚程度、長編小説と言われるものでも1000枚を越える物は滅多にありません。1万枚がどれほど長いかお分かり頂けると思います。

 

 面倒くさくなった訳ではないのですが、私の筆力ではこの作品の面白さをお伝えすることができません。中途半端な解説で申し訳ありませんでした。ちなみに、普通に読むなら、『レ ミゼラブル』や『ジャン クリストフ』の方がお勧めできます。ダジャレになりますが、400万文字の大小説を読んで、「失う時間」の方が今の私にはもったいないです。今、読めと言われたら断ると思います。

 

 ここまできて、一番最初に書いた言葉に戻りましょう。「本当の発見の旅とは、新しい風景を探すことではなく、新しい物の見方を得ることだ」(マルセル プルースト)。