takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

福島原発事故-21

 昨日、ご説明しましたフェール セーフを使って、もう一度1号機の状況を説明します。

 

 3月11日15時37分(地震発生からおよそ1時間後)l号機は直流を含む全電源を喪失しました。中央制御室は真っ暗です。また、直流電源の喪失により、各種の計器もすべて表示しなくなりました。最重要なパラメータである原子炉の水位や圧力も、同様に不明です。

 

 1号機のみに装備されている、IC(Isolation Condenser:非常用復水器)は、それまで運転員がオンオフを繰り返しながら順調に機能していました。しかし、全電源喪失と同時にフェールセーフ機能のため、4つあるバルブすべてに「閉」信号が発せられました。そのため、ICは冷やされるべき原子炉の高温蒸気が復水器タンク(冷却された蒸気が液体の水に戻ることから、そう呼ばれている)に循環しなくなり、冷却機能はほぼ失われてしまったのです。

 

 フェール=異常事態では、セーフ=安全サイドにあるべきと言う設計思想が、バルブを全て「閉」にしてしまったのです。繰り返しますが、l号機では、「フェール=異常事態」では、放射能の漏洩を抑えるために圧力容器を「閉じ込める」ことが「セーフ=安全サイド」である、という設計思想だったのです。しかしこの考えは、冷却回路が遮断されICが機能しなくなり、逆に危険側にもなるという矛盾をはらんでいました。

 

 発電所の所長である吉田昌郎氏を始め、東電のエンジニアや保安院の職員たちも、フェールセーフ機能でICが停止する、ということには思いが至りませんでした。

 

 1号機では、制御を行う直流と、動力源となる交流を同時に喪失しましたが、これによって「バルブ閉」の信号が発せられると同時に、バルブを閉めるための駆動電源(格納容器内の2つのバルブ壮交流480V、格納容器外の2つは直流125V)もほぼ同時に喪失しています。そのため、実際にバルブが閉まったのか、それとも閉まろうとして途中で止まり、「中間開」で止まったのか、その点は両者の微妙なタイミング次第で判然としていません。しかし、電源喪失後2時間あまりしか経過していない18時頃から放射線量上昇のデータが検出され始めていることや、ずっと後になって復水器の水の残量が確認されて、ICが初めからほとんど機能していなかったことは政府・国会両報告書確の中でも記載されています。

 

 フェール セーフは、設計思想の現れですから、どちらが安全かを設計者が考慮し安全だと考える方へ装置の動きを制御します。例えば、1972年11月6日未明に発生した北陸トンネル火災事故では、当時の安全マニュアルに列車火災の時は停止すると言うフェール セーフ思想が被害を拡大させました。長いトンネルの中で火事になった列車を停止させましたから、30名もの人が一酸化炭素中毒で亡くなっています。「列車の火事=列車を停止」が安全と考えられていたからです。現在は、トンネル火災の場合は、とにかく走り抜けてから停止すると言うことになっています。

北陸トンネル火災に関しては、昨年11月6日のブログで紹介しています