takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

スチームタービンの軸受け保温材の発火による原子力発電所の緊急停止

2002年(平成14年)12月12日、福井県 敦賀市原子力発電所で高圧スチームタービン軸受けが発火しました。火は消し止められましたが手動操作で原子炉は停止となりました。発火の原因は、軸受け油主油タンクを真空に保つ機械吸い出し口シール部が詰まっていて真空にならず、そのため潤滑油が霧状に噴霧し保温材に浸み込んだというお粗末なものでした。付帯機器のさらに付帯機器の小さな部品ですから、維持管理と不具合時の対策に手抜かりがあったのでしょう。しかし、真空になったかならないかは、センサーでチェックできることです。どうも原子力発電所は、原子炉だけを厳重に作って付帯設備を軽く見ているようです。福島だって補助電源の故障です。新潟の柏崎も付帯設備の火災です。勿論、この事故で放射線が外部にもれるようなことにはなっていません。

 

//// 以下は、失敗知識データベースからの転載です。

 

経過

2002年12月12日19:00頃 タービン建屋3階の高圧スチームタービン付近の床面で油漏れのふき取り作業中、高圧タービンケーシング保温材付近から煙が出た。

19:39 保温材を取り外し中に発火、直ちに消火器で消火した。

20:51 再発火した。消火作業を行った。

21:00 原子炉を手動で止めた。

原因

タービン軸受けの主油タンクを減圧に維持するため、ガス抽出機(真空ポンプ)で引いているが、その抽出機を修理するため、予備のエアエゼクターに切り換えた。ところが、エアエゼクターでは真空にならず、軸受けからの漏洩油が霧状に噴射され、保温材に浸み込んだために、通常の発火温度より低温で発火した。真空にならなかったのは、エゼクター出口のUシール部が詰まっていたため、エゼクター機能が働かなかった。図3参照

対策

シールの交換と掃除をし易い構造に変えた。また軸受け箱から潤滑油が漏洩しても保温材に浸み込まないようにカバーを設け、漏油受けを設けた。

以上はトラブルに応じた対策だけである。この様な取るに足らない部品の不具合が起こった時の影響と対策を全体に見直すことが必要ではないか。原子力関係では、厳重な検討がされているのだろうが、「もんじゅ」の金属ナトリウムの漏洩などと併せ考えると、一度再点検が必要ではないか。

知識化

どんな大きなシステムも、非常に小さな取るに足らない部品を含め成り立っている。メインの機器ではないからといって手抜きはできない。事故は往々にして、十分な検討や維持管理ができなかった小部分から起こることがしばしばある。

 

//// ここまで。

 

巨大な設備、システムであればあるほど保守点検は重要です。メイン設備はそれなりに、チェックリストがあって日常点検、あるいは点検の監査もあるでしょう。しかし、小さな付帯設備はそうなっていない場合もあります。また、逆に付帯設備の小さな部品まで完全に点検して回ることはできません。そんなことをしたら毎日が点検だけの時間となり、発電機を動かすことはできなくなるでしょう。そのため、システムチェックを抜かりなく行う様々な手法が考えられています。

以下、FMEAについて、簡単な説明をします。技術士口頭試験でも質問されることですから、これぐらいは記憶して下さい。1ヶ月頭の中に入れておけば試験は終わります。

 

FMEA:(意味:故障モードとその影響の解析)は、「設計の不完全や潜在的な欠点を見出すために構成要素の故障モードとその上位アイテムへの影響を解析する技法」などと書いてあります。しかし、これでは何のことだか分かりません。こんな、訳の分らない定義になんの意味があるのでしょう。ですから、普通の日本語に直します。

FMEAとは、過去のトラブルや想定するトラブルが、現存する機械やこれから商品化する機械に関して起こり得るか否か、もし起こり得るならば、その発生率や影響はどのくらいかを全員設計(チームデザイン)で推定議論し、事前に検討しておくという開発活動です。そのため、FMEAを行っている開発室は賑やかです。

このFMEAをしっかり行うことで、ある部品に何かの事象が発生した場合、システム全体にどのような影響がでるのかが、想定できます。ですから、保守点検もそこからチェックすれば良いことになります。

他にも、FTAETA等がありますが、基本はこのFMEAです。これをしっかり理解して使いこなしましょう。どんな小さな付帯設備も図面があって作られています。付帯設備がシステム全体の中でどのように使用されているかも図面化されています。FMEAは、設計書と図面、部品表ができた段階で行うことができます、必ずやりましょう。

日本のメーカがグローバルで勝てなくなった製品分野に、家電品があります。韓国のLGやサンスン、自動車ですがヒュンダイはFMEAを日本から学んで、独自に発達させ成果を上げています。スピーディーでポイントだけをまとめたFMEAは、開発速度を上げ、商品化のサイクルを短くし、リコールや社告を減らします。韓国や中国の企業にできるのですから、日本企業にもできるはずです。下らないナショナリズムに囚われないで良いものは誰からでも学びましょう。それが、本当に賢いやり方だと思います。

大抵のエンジニアは、モノを作る人です。基礎研究や分析調査だけの人もいるでしょうが、大雑把に言って、製品を開発し製造する人がエンジニアでしょう。そのエンジニアは、自分のオリジナル性に拘ります、世界初のモノを作りたがります。世界で初めての製品、誰も見たことがない製品の危険性は作った人にしか分かりません。製品を購入し使用する不特定多数の方達を守るのはエンジニアの使命です。