takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

シャーロキアン技術士・2

今日も続けてシャーロキアン関連。

シャーロキアン (Sherlockian) の厳密な定義は、シャーロック ホームズを実在の人物と見なし、『シャーロック・ホームズ シリーズ』を正典 (Canon)または聖典と呼んで、学術的な各種の研究を行う人達です。まあ、一般的には、アーサー コナン ドイルが書いた『シャーロック ホームズ シリーズ』の主人公シャーロック ホームズの熱狂的なファンを指します(私も普段はそのように説明します)。ただし、本家イギリスではホームジアン (Holmesian) 、アメリカ合衆国や日本ではシャーロキアンと呼ばれています。現代日本風に言えば「ホームズオタク」でしょうか。

 

シャーロキアンの活動は、キリスト教における聖書研究を意識的にパロディ化した行動様式です。私はキリスト教徒ではありませんし、宗教心がありませんからキリストの存在自体を信じていません。ですから、聖書を通じたキリストの研究とは、『聖書』という物語に書かれたキリストを実在の人物とみなして学術的に研究することだと思っています。シャーロキアンは、不敬を承知で聖書研究をパロディ化して遊んでいる訳です(これはキリスト教を信じる方をばかにしているのではありません)。そのため、シャーロキアンの使う用語には宗教用語をもじった言葉が多くあります。

また、『シャーロック ホームズ シリーズ』の多くはホームズの相棒であるジョン H ワトスンが執筆したという設定でドイルが書いていますが、シャーロキアンはワトスンを実際の執筆者と見なし、本来の執筆者であるドイルはワトスンの出版エージェントもしくはゴーストライターと位置づけられています。

一方、シャーロキアンは事情を良く知らない部外者に対し、自分たちがホームズを実在の人物であると本当に信じ込んでいるかのように装ってからかう傾向がありますが、これは頂けません。私は、絶対にやりません。

 

シャーロキアンの研究テーマは多岐にわたっています。最も一般的に行われているものは、「事件関係者のプライバシーやスキャンダル性を考慮して、日付・地名・人物名を変更している」もしくは「ホームズが何らかの理由で事件の真相を伏せ、ワトスンに偽の真相を教えた」と考え、事件の真相を探り出そうとする研究が多いようです。これは、想像力の力になりますから、空想と現実を意図的に混同した研究もどきとも言えます。例えば、作家であるドイルのミス(本当のミス)を作品中に見つけ出し、ミスをミスで済ませず、これには何か深いわけがあるかのように研究します。ホームズの話はあくまで小説の話ですから、これはどのようにでも結論を導き出すことができます。ですから、その研究論文に矛盾がなく、多くの人を納得させられれば称賛されます。大人の知的な遊びと言っても良いでしょう。逆に、まじめ一辺倒の研究は敬遠されますし、文学作品としての『シャーロック ホームズ シリーズ』研究とは全く異なります。

 

このような、シャーロキアンの研究成果によって、シャーロック ホームズは小説の世界の登場人物でありながら伝記が何冊も出版されています。

加えて、シャーロキアンの代表的な研究テーマには以下のようなものがあります。

 

  1. ホームズの性別:ホームズが女性であったと主張する研究・主張しています(ワトソン女性説もあります)。
  2. ホームズの収入:ホームズがどれだけの収入を得ていたか、収入がどう推移したかを推測します。
  3. バスカヴィル家の特定:『バスカヴィル家の犬』に登場するバスカヴィルホールという屋敷が、ダートムア地方にあるどの屋敷かを特定する研究です。
  4. 大空白時代:『最後の事件』でホームズがジェームズ・モリアーティ教授と共にライヘンバッハの滝に落ちて死亡したと思われてから、『空き家の冒険』で帰還するまで(大空白時代)、どこで何をしていたかを研究します。
  5. バリツ:ホームズがライヘンバッハで使った日本の格闘技バリツの正体と使用した技を推測します。通説の柔術のほかに相撲などがあります。
  6. ワトスンの結婚:物語にワトスンが妻を亡くしたと解釈できる箇所と、結婚の時期が一致しない箇所があるため、ワトスンが複数回結婚したと考え、その回数と結婚相手を特定します。

等々、きりがありませんが、他にも年代学、ヴィクトリア朝の文化・風俗・政治・経済・技術など背景事情を全般的に知るための研究もあり、ホームズを読み出して40年を越える私も知らない研究は沢山あります。なにしろ、ホームズはコーヒーと紅茶のどちらを好んで飲んだか、あるいは作品中コーヒーは何杯飲んだかなんて研究されています(ホームズはイギリス人ですが、好んで飲んでいるのはコーヒーです)。

 

私が個人的に調べているのは、ホームズの人気の秘密です。なぜ、これほど長く世界中の人に愛され読まれ続けているのかを歴史的な経緯から調べています。ただし、これはシャーロキアンの範疇から少し外れてしまいますし、英国的ユーモアが足りません。