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takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

9月11日、今日で12年だがあの光景は忘れられない-2

日にちが異なるのですが、長くなったので2日に分けました。昨日と今日の記事は、日経サイエンスや「今この世界を生きているあなたのためのサイエンス」(リチャード ムラー)を参考にしています。

 

前述したように、ガソリンには、TNT火薬以上のエネルギーがあります。しかも、はるかに大きなエネルギーです。それどころか、内の子供が好きな明治のミルクチョコレートでさえ、TNT火薬を上回るエネルギーを持っています。

明治のミルクチョコレートのエネルギーは、1箱10粒で42グラム、234キロカロリーです。つまり、1グラム当たり5.5キロカロリーに相当します(ダイエットされている方はお分かりでしょう)。これに対して、TNTのエネルギーは、1グラム当たりたったの0.65キロカロリー(チョコレートの1/9)しかありません。

会社でこの話をすると、「まさか」とか「そんなバカな!」と言って驚く人がいます。しかし、よく考えてみればもっともなことなのです。これも、昨日書きましたが、TNT火薬が利用されるのは、エネルギー含量が大きいからではなく、エネルギーの放出速度がひじょうに速いからなのです。なぜなら、ガソリンやチョコレートとは異なり、TNTは空気と化合する必要がないからです。TNTは化学的連鎖反応によって爆発します。その連鎖反応は100万分の1秒で、運動エネルギーに変換されます。TNT分子の燃焼は高速であり、それゆえに高温なのです。

 

9・11事件で、テロリスト達は、強力な兵器を使って意図的に世界貿易センターを破壊したのではありません。ジェツト燃料の高エネルギーが燃焼し長時間の火災が発生したために崩壊したのです。このとき放出されたエネルギーは高熱を発生させ、ビルの鉄骨の分子を高速振動させました。揺れ動く分子は、隣り合う分子を押しのけようとします。物体が高温になると膨張するのは、そのためです。しかし、このように間隔が開くと、鉄骨の分子間の引力を弱めることになります。その結果、熱い鉄骨は冷たい鉄骨よりも弱くなるのです。こうして鉄骨構造がもろくなったことで、最終的にビルの崩壊につながりました。

 

繰り返しますが、飛行機が突入して大爆発が起きたのではありません。起きたのは、高熱による物体の不安定化と鉄骨の湾曲です。乗っ取られた旅客機が世界貿易センタービルに突っ込んだとき、ビルの上部を支えている相当数の側柱が破壊されました。窓や外壁は剥がれ落ち、飛行機自体もバラバラになり、主に翼内に貯蔵されていた60トンの燃料の多くが噴出しました。それでも、まだビルの上階を支えられるだけの側柱が残っていました。ビルそのものは無事でした、実にすばらしい設計です。

 

こうした場合、燃料が発火する原因としては、衝突のエネルギー(デイーゼルエンジンの燃料は急激な圧縮によって点火される)、火花、エンジンの熱など、さまざまなものがあります。衝突事故を起こした自動車は、しばしば、とくにガソリンタンクが破損して穴があいた場合などは、炎上します。でも、アクション映画でよくあるように、衝突した車が爆発するようなことはありません。専門用語でいえば、爆発というより「デフラグレーション」(燃焼波の高速伝播による物体の不安定化)というほうが正しいと思います。

 

世界貿易センタービルの鉄骨柱は、断熱材で被覆されていましたから、普通の火炎なら2、3時間さらされても耐えられる設計になっていました。しかし、燃えたのは、事務用什器や書類ではありません。飛行機の燃料が燃えました。燃焼速度は、燃料がどれだけあるかではなく、酸素がどれだけ供給されるかによって制限されます。空気の量が少なかったために燃焼時間が長くなり、熱が断熱材を通過してしまったのです。

 

高温になれば、鉄も溶けますが溶鉱炉なような温度(1800度)になった訳ではありません。しかし、溶け出すよりもずっと低い温度(800度程度)でも、鉄はやわらかくなります。それよりさらに低い温度(600度程度)でも、鉄は弱くなります。こうした変化はすべて、分子の振動によるものです。つまり、鉄の原子の間隔が開き、鉄の結合力を弱めてしまうのです。ジエット燃料が、ビルの設計者の予想をはるかに上回る高熱を生み出し、大惨事を引き起こしたのです。

 

このビルの設計者たちは、何トンものジェット燃料がビルの上層部で一時間以上も燃えつづけるような火災への対策が必要になるとは、夢にも思わなかったでしょう。まさに、想定外です。

 

温度が摂氏800度を超えたとき、鉄骨柱は座屈(横方向への湾曲)を起こすほど、強度が落ちてしまいました。座屈とは、ゆるやかな崩壊ではありません。アイスコーヒーを飲む時に使うストローを両手ではさんで、両端から押してみてください。材質がただの樹脂であることを考慮すると、ストローはかなりの耐性を示します。そして、ある瞬間に突然折れてしまいます。これは、ストローが純粋な圧縮に対してはかなりの強度を持っているからです。しかし、ストロー(あるいは鉄骨柱)は少しでも曲がると、簡単に座屈してしまいます。薄いプラスチックや紙は、湾曲に対してはほとんど耐性がありません。

 

このビルを設計した技師の一人が、テレビでこの火災の状況を見ていたとき、この前例のない崩壊が起きる可能性に気付いたそうです。しかし、この時現場では混乱をきわめていましたから消防隊に連絡をとって、ビルの下層階から避難するように警告することはできませんでした。しかし、あの映像からビルの崩壊危機を予測できるのは素晴らしい洞察力を持った素晴らしいエンジニアであり、設計者です(私は見ていませんがTVのインタビューに出ていたそうです)。連絡が取れなかったことは悔しかったでしょう。