takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

東京ビッグサイトのエスカレータ逆走事故

2008年(平成20年)8月3日、東京都江東区有明の東京国際展示場東京ビッグサイト)エスカレーターにおいて、定員以上の乗客が乗り込んだため、ガクッという音とショックの後エスカレーターは停止し逆走した。客達は、エスカレーターの乗り口付近で仰向けに折り重なるようにして倒れ、10人がエスカレーターの段差に体をぶつけ足首を切ったり、軽い打撲のけがをした。

エスカレーターは、荷重オーバーで自動停止しさらにブレーキも効かず逆走・降下した。ただ、荷重オーバーによる停止を超えて、ブレーキ能力に限界があり逆走が発生したので、エスカレーターの機構にも問題がある可能性も考えられる。

また、エスカレーターの逆走により、極めて高い密度で皆後ろ向きで乗り口付近で折り重なるように倒れたことから、「群集雪崩」が発生したとも考えられる。

 

経過

東京ビッグサイト4階で開催されるアニメのフィギュアの展示・即売会場に直結するエスカレーターにおいて、開場にあたり警備員1人が先頭に立ち誘導し多くの客がエスカレーターに乗り始めた。客達は先を争うようにエスカレーターに乗り込んだが、先頭は警備員が規制していたため、エスカレーターの1段に3~4人が乗るほどのすし詰め状態となった。

先頭が全長35mの7~8割ほどまで上がったところで、ガクッという音とショックを受けエスカレーターは停止し、その後下りエスカレーターよりも速い速度で逆走・降下しはじめた。客達は、エスカレーターの乗り口付近で仰向けに折り重なるようにして倒れた。10人が、エスカレーターの段差に体をぶつけ足首を切ったり、軽い打撲のけがをした。

周囲の人々が、倒れた人を引き起こしたり、移動させるなどの救助に協力した。関係者が異常に気付き緊急停止ボタンを押したり、逆走により乗員が減ったことからブレーキが効き始め、逆走は停止した。

 

原因

このエスカレーターは、荷重制限が約7.5t、逆送防止用ブレーキ能力の限界が約9.3tであったのに対し、事故当時は約120人が乗車したことから、逆送防止用ブレーキ能力の限界荷重をもオーバーし自動停止しさらにブレーキも効かず逆走・降下した。ただ、荷重制限とブレーキ能力の限界までには、(9.3-7.5=)1.8tの余裕があるはずなのに、停止してすぐ逆走したことから、エスカレーターの機構にも問題がある可能性もある。

また、1段あたり3~4人乗車しており、「人口密度」は8.6人/平方メートルにも達している。さらに皆後ろ向きで乗り口付近で折り重なるように倒れ人口密度は増大し、「群集雪崩」が発生したことがけが人発生の原因である。周囲の人々の救助が功を奏したのと被害者は若者が殆どだったので、軽傷程度のけがですんだ。

 

背景

エスカレーターのかけ上がりによる事故防止ばかりに目を取られ、警備員が乗員の先頭に立ち、エスカレーターへの乗り込みは規制しなかったため、エスカレーターの定員オーバーを誘発したこと。

警備員にも、エスカレーターの定員に関する知識が欠如していたと考えられる。

 

//// ここまでは、失敗知識データベースから省略・加筆して転載した。

 

本日2本目となるが、この事故については書いておきたかった。

この事故だけではないが、エスカレータに関しては安全基準が低すぎるのだ。普通のビルや百貨店にある短いエスカレータと、イベント会場やものすごく深い地下鉄駅に設置されているような長いエスカレータを同じ基準で規制していたことに無理がある。そもそも、エスカレータの制限事項を見ると驚くようなことが書いてある。これでは、買い物をして両手が塞がったらエレベータか階段を使うしかない。

ビックサイトの事故では、客が若い人ばかりだったから軽傷ですんだのだろう。これが、御年寄り中心のイベントで高齢者ばかりが乗ったエスカレータだったら死亡事故になっていたかも知れない。5年前の事故なのですでに新聞記事は見つからないが、事故当時は、「オタクの祭典でエスカレータ逆走」などと書かれていた。また、事故当時の動画映像をメーカの人間(技術者なのか広報担当か分らない)に見せて「異常な乗り方です」などと言わせている。

確かに「異常な乗り方」だったのかも知れない。しかし、イベント会場なんて大勢の人が殺到することは日常茶飯事だろう、イベント会場にとっては異常事態ではない。大勢の人が殺到するから人気イベントなのだ。メーカ側がそれを批難するなら、大勢の人が殺到するとエスカレータが停止して逆走する恐れがあることを建物の管理者へ伝えていたのだろうか。マスコミの報道ではそこまで分らない。また、重量オーバーでエスカレータが停止するのは良いとして、簡単に逆走するのは問題ではないのか。りんかい線「大井町」駅の長いエスカレータ(確か日本一長い)が満員状態で停止し、さらに逆走を始めたらどうゆうことになるか想像するのはそれほど難しいことではない。エスカレータを設計している技術者なら分るはずだ。

エンジニアが作りだし世の中に提供するものは、便利で豊かな社会を作るためにある。それは、自分の知らない不特定多数の人が使用する。法令を遵守して作れば良いというものではない。法令遵守は最低条件として、そこから先の安全基準は自ら考える責任がある。