takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

落雷でジェット燃料タンクの爆発炎上、そして燃料は二酸化炭素となる

1987年(昭和62年)7月01日、北海道 千歳市の自衛隊基地で基地内ジェット燃料タンク(覆土式、直径27m、高さ6.1m)に落雷、爆発、炎上した。火災は鎮火まで3時間を要した。

 

経過

容量3260klの覆土式のタンクにほぼ満タンのジェット燃料が貯蔵されていた。雷雨時にタンクに落雷があった直後に爆発炎上し、タンク全壊、内容物が焼失した。火災は約3時間後に消火した。

 

原因

1) 直接の原因は、落雷である。タンク上部の空中に出ている液面計のコンジットパイプ又は液面計本体に落雷が起こり、これがタンク内で放電し、タンク内の可燃性蒸気に着火し、爆発した。タンクには避雷針が設置してあったが十分に機能していなかった。

 

2) タンク本体は覆土されているが、本体に接続してタンク上部から空中に突出しているものが、液面計など4ヶあった。その中の液面計の測定テープに放電痕があり、そこで放電したと推定された。他の3ヶ所の突き出し部は全て本体に直接溶接され、電気抵抗の大きいところもなく、放電した痕もなかった。

 

対策

1) 液面計等の電気設備は、放電しない方式とする。

2)  タンク上部に可燃性蒸気が形成されない構造とする。

3) 機械設備など、主たる目的だけでその道の専門家だけで設計するのではなく、関連するカテゴリーの専門家の協力も求める。

知識化 この事故では計器としてより良い精度を生むための設計が、他の目的(導電性の良いこと)を無視して行われた。一つの機械、計器にも主たる目的だけではなく、各種の機能が要求されることが多い。色々な専門家の協力が必要なことを示している。

 

背景

液面計の抵抗値は本体、避雷設備と同じく10Ω以下で設計されていた。しかし、部分的にゴム製のベローズが使われ、そこで抵抗が大きくなり、高電位を生じた。設計の見落としと考えられる。

液面計の測定誤差を少なくするため、使った部品が抵抗になった。2つの目的があるにも拘わらず片側しか考慮できなかった。

 

//// ここまでは、失敗知識データベースから省略・加筆して転載した。

 

日本国内で燃料タンクへの落雷事故は、ほとんど発生していない。上記事故も、26年前の事故である。しかし、お隣の中国では、「2011年11月22日、遼寧省大連市の15万トン級石油タンク2基で火災が発生した。この1年半で5回目の火災となった。」

と、いうように頻繁に発生している。大連市は、人口600万超の大都市、日本のどの「市」より人口は多い。私が住む埼玉県は、人口700万超だから埼玉県で1年半の間に石油タンクが5回爆発したイメージだろうか(面積は埼玉の2倍ある)。世界的に見ると、燃料タンクへの落雷事故は少なくない(中国に集中しているけれど)。

もっとも、避雷設備がしっかり設置されていれば、落雷による事故は防止できるものなのでタンクを設計する段階で対処すべき問題だろう。15万トンのタンク2基分の石油をそのまま外で燃やしたら、どれだけの油煙がでるか考えただけでも恐ろしい。大連は東シナ海の奥の方にあるから北朝鮮や韓国はすぐ近くだし、九州も近い。

 

ところで、15万トンの石油タンク2基、つまり30万トンの石油が全て燃焼した場合、二酸化炭素はどれくらい発生するだろうか(満タンだったと仮定している)。

環境庁の二酸化炭素排出量調査報告書によると、原油1リットルあたりの炭素換算排出量は、0.7225kg-C/lとなっている。ここでも、科学的に正確な表現を使って分りにくくしているので、もう少し砕いて解説したい。

温室効果ガスである二酸化炭素換算の排出量を表すとき、二酸化炭素の重量である「kg-CO2」を用いる場合と、その中の炭素の重量のみを取り出して「炭素換算」した「kg-C」を用いる場合とがある。正確に表現するなら、炭素換算した方が良いが、ふだん、二酸化炭素〇トンと言っておいて「二酸化炭素排出量調査報告書」では、炭素に換算するのはバカげている。食品の内容物表示で「塩分〇グラム」と表示しないで「ナトリウム〇ミリグラム」と表示するのと同じだ(ミリグラムとグラム表示に気を付けて2.54倍すればよい)。

 

炭素Cの原子量は12、酸素Oの原子量は16、CO2の分子量は44(12+16×2=44)であるから、二酸化炭素重量に12/44をかけると炭素換算量になる。つまり、44kg-CO2は12kg-Cと同じことになる。

したがって、上記環境庁の「二酸化炭素排出量調査報告書」に出ている「0.7225kg-C/l」をもとに、原油1リットルあたりの二酸化炭素排出量を計算すると以下となる。

 

  0.7225kg-C/l=0.7225×44/12kg-CO2/l=2.649kg-CO2/l

 

次に、重量への換算だが、原油は産地により比重が異なる、そのため、厳密な換算は困難だが、おおよその原油の比重は0.9である。つまり、1リットル=0.9kgとなるので、原油1トンあたりの二酸化炭素排出量は下記の様になる。

 

  2.649kg-CO2/l=2.649/0.9kg-CO2/kg=2.9kg-CO2/kg

 

一般常識として記憶するなら、1トンの原油・石油を燃焼させると3(2.9でも良い)トンの二酸化炭素が発生すると覚えておけば良い。

話を最初に戻す。大連で燃えてしまった30万トンの石油は、90万トンの二酸化炭素になって地表面の熱が宇宙へ放射することを防止している。