takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

トリウム溶融塩型原子炉が普及しない理由

次世代原子炉として海外では注目されている「トリウム溶融塩型原子炉」だが、問題点もある。ネットでは配管の腐食問題が指摘されているが、これは1950~60年代にアメリカの実験炉で使用されたように、インコネルやハステロイの合金で解決できると思う。50年前と今とでは材料に関する技術的知見は格段に積み上げられ向上している。

問題は、現在のウラン型原子炉に比べて、複雑な形状になるため装置を大きくできないところにある。古川和男博士は「原発安全革命」-文藝春秋刊の中で「10万~30万キロワットの小型発電炉」を複数作ることを提唱されている。だから、大きく作る必要はないと言うことだろう。しかし、現在の日本で小型原子炉を町の近く全国津々浦々に建設することができるだろうか。単純に言えば、現在の100万キロワットの原子炉50基を10万キロワット500基に分散して立て替えると言うことである。これは、到底受け入れてもらえないと思う。例えば、昨日の読売新聞にはこんな記事があった。

 

原子力の将来描けぬ…7大・大学院で定員割れ

 

 国内の主要大学・大学院にある原子力関係の3学科と9専攻のうち、2学科5専攻で今年度の入学者(4月末現在)が定員割れになっていることがわかった。

  背景には、原発事故によるイメージ悪化に加え、国の原子力政策が定まらず、将来が描けない学生の原子力離れがある。人材育成が滞れば今後の原発の廃炉作業にも影響が及びかねないため、関係者は危機感を強めている。

  文部科学省が入学状況を調査している、「原子」のつく学科・専攻は、大学で3学科、大学院(修士課程)で9専攻ある。読売新聞がこれらに今年度の入学者を聞いたところ、福井工業大や東海大、東京工業大、京都大など、4月末現在で7大・大学院の2学科5専攻(早稲田大は9月入学を含まず)が定員割れしていた。東京大などは定員を満たしていた。

  定員割れした大学は、原発事故直後の2011年度は大学院の2専攻だけだったが、12年度は6学科・専攻に増加。2年連続で定員割れした東京工業大で指導する井頭政之教授(放射線物理学)は、「親の反対で入学直前に辞退した人もいた。逆風の中、あえて原子力を学ぶ学生が減っている」と危機感を語る。

 

(2013年6月21日03時01分  読売新聞)

 

 次世代を研究する大学ですら上記の状態である。「トリウム溶融塩炉は、安全だから小型化して沢山作ろう」と言ったところで誰も賛同しないだろう。これなら、現在、安全対策が強化された今ある原子炉をそのまま稼働されるようにしたほうが遙かに早いし受け入れられ易いはずだ。

科学技術は、安全で安心な社会を作るためにある。より安全な装置は、技術屋が改良を重ねて作ればよい。しかし、社会に安心を与えるにはそれだけではダメなのである。これから科学技術に携わる人間は、このことを理解する必要がある。