takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

杉並区小学校での校舎天窓落下事故

2008年(平成20年)6月18日午前9時半頃、東京都杉並区第十小学校の3階屋上で授業が行われていた。授業中、男子児童が屋上にあるドーム型の天窓に乗ったところ、天窓が割れ、12メートル下の1階床に転落し、全身を強打した。

男子児童は救急車で病院に搬送され、救急医療を受けたが、同日午後1時17分、死亡した。

天窓は、 直径1メートル30センチメートルのドーム状で、ドーム状の部分は、公称厚さ4ミリメートルのアクリル樹脂製、その下部には、厚さ6.8ミリメートルの網入りガラスが設置されている(図2図3)。

 

経過

同男子児童は、屋上で授業を受け教室に戻る途中であった。児童がドーム型の天窓に乗り、飛び跳ねたため、天窓の覆いが壊れたことから発生した。その形状は児童らの興味を引きやすく、また、容易に乗ることができた。また、児童らはドーム型の覆いが天窓であり、下が吹き抜け構造になっていることを知らなかった。

 

原因

児童がドーム型の天窓に乗り、飛び跳ねたため、天窓の覆いが壊れたことが直接的な原因であるが、「屋上は児童が立ち入らない」という改築時の前提が継承されず、屋上を使用した授業が行われるようになったことも間接的な原因として挙げられる。

この校舎は、昭和61年に建設され、3階屋上については児童の学習活動では使用しないことを前提に設計された。「屋上は児童が立ち入らない」という考え方は、改築当時は、教育委員会、施設建設担当の所管課、この小学校の関係者で共通理解され、管理も徹底されていた。しかし、学校施設の使用に係るこの重要な情報が、その後の校長等の異動時に引き継がれていなかった。

 

対策

  • 防護柵の設置
  • 防護ネットの設置
  • 安全柵の設置
  • 屋上への立ち入り禁止の徹底
  • 児童・生徒への危険性の理解
  • 高所の危険性を理解していない児童がいるということを、教師に徹底して理解させる

//// ここまでは、失敗知識データベースから省略・加筆して転載した。

 

昭和61年(1986年)に改築した時は、「屋上に児童は立ち入らない」という前提だったが、いつの間にかその前提条件は忘れ去れていた。これは、事故や災害が発生する原因の本質的な問題であり、根本的な対策は難しいことなのだ。

例えば、東日本大震災時に東北地方を襲った津波は、明治時代になってからの約140年間で4回発生している。

50年前のチリ地震を原因とする津波の時は、142名の死者・行方不明者がいる。慰霊碑も建てている。しかし、それも全て忘れ去られて2011年の3月11日にはあのような大災害になっている。

加えて、学校における屋上の天窓からの落下事故は、上記杉並区の事故からわずか2年後に鹿児島県霧島市で発生している(2010年4月8日)。子供の心理として、屋上にあるドーム型の天窓は、乗って遊びたくなるのかも知れない。設計し設置する側は、大人だから子供の行動を予測するのは難しいが、思わぬ行動にでることを常に念頭に置く必要がある。

もう一つ、私が上記リンク(図2)にある、天窓の略図を見て不思議に思うことがある。ドーム型窓の下にある金網入りガラスは一体何のためにあったのだろう。恐らく、上のドーム型窓を踏み抜けた時用(つまり、非常用)に設置したものだろう。この、網入り平板ガラスの強度はしっかり計算されているのだろうか。上にある、ドーム型窓を踏み抜けてさらに40~50センチの落下による加速を加えた衝撃に耐えられるように設置したのであろうか。網入りで6.8ミリと言う厚さを見ると、そうはなっていないと思う。万一の時には、何の役にも立たないけれど見た目には安全そうに見える、と言うようなものだろう。

誤解のないように書いておくが、私は、勝手に遊んだ子供にも責任があるとか、目を離した先生が悪いとか、親の教育が悪い等と言う話しには興味がない。それは、その道のプロが話し合えば良いことなのだ。もちろん、自分の子供には、「危ないことはするな」と言うけれど、それは全く別の話しである。

最初の話しに戻るが、屋上へは児童が立ち入らないことになっていた。しかし、それは時間と共に忘れ去られていた。つまり、表記も表示も記録も無かった。あるいは、改築した時は、屋上へ出るためのドアに「屋上へは出られません」と紙に書いて張って有ったのかもしれない。いずれにしても、改築から27年後の2013年には、危険を知らせるなんの信号も出ていなかったはずだ。

さらに、ドーム型の窓の下には、役に立たない安全装置(墜落防止用の保護ガラス)が飾られていた。これでは、事故が多発するはずである。ちなみに、1999年以降、14年の間に学校で天窓から落下した事故は6件あるらしい、全てが死亡事故なのかは分らない。