takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

ヒドロキシルアミンの爆発事故・工場は跡形も無く吹き飛んだ

2000年(平成12年)06月10日、群馬県 尾島町にある日進化工株式会社・尾島工場で、ヒドロキシルアミン50%水溶液の再蒸留塔(減圧蒸留,操業温度50℃)が爆発、火災となった。

再蒸留塔は跡形もなく吹き飛び、周囲半径1.5kmの住宅等に爆風の被害があった。工場内はほぼ壊滅に近い被害を受け、さらに、工場外の被害も甚大なものであった。周辺の国道が火災から生じた煙や有害性ガスのために一時ストップした。

生じた爆風により工場及び周辺建物、住民を巻き込む大事故となって、死者4名、負傷者58名の被害が発生している。

 

再蒸留設備とは何か:

最初に生産される50%濃度のヒドロキシルアミン水溶液は、鉄分を主体とした不純物を数十ppb含んでいる。この不純物の鉄、ナトリウムなどをそれぞれ1ppb以下にした高純度のヒドロキシルアミン50%水溶液を得る。その操作を行う設備一式をいう。部分蒸発を行う再蒸留塔が主体である。

 

原因

1.高濃度ヒドロキシルアミン水溶液は、それ自身、あるいは鉄イオンと反応して分解爆発を起こす。

2.再蒸留塔塔底部はヒドロキシルアミンが80~85%に濃縮されて循環され、その循環液中に粗ヒドロキシルアミンの50%溶液を供給し、精製ヒドロキシアミンの50%蒸気を塔頂に、80%濃度の液を塔底に落す。供給原料中に約50PPB入っている鉄イオンを製品中に1PPB以下にするため、塔底から循環液の一部を抜出している。

3.緊急時に塔内液を抜出しするため、塔底液循環配管下側に緊急用抜出し配管が設けられており、少し離れた場所に仕切り弁が設けられていた。塔底循環配管から仕切り弁までが動きのない部分(行き止まり配管)になっていた。塔底部で循環している液からわずかずつ鐵イオンが行き止まり配管部に蓄積し、それが原因でヒドロキシルアミンの分解反応が起こり、蒸留塔下部から順次爆ごうが伝播していったとの説が有

力である。

 

対策

工場は閉鎖された。もし再建あるいは新設するならば、知識化欄に示すような高濃度のヒドロキシルアミンの危険性に十分留意した設備や取扱い方にしなければならない。

 

知識化

1.高濃度のヒドロキシルアミンは極めて危険なので、薄めて使用(運搬)する。15%以下の濃度にすれば消防法上の危険物としての危険性は無くなる。

 

2.製造においても危険な施設は作らない。作る場合は、火薬なみの規制(防護壁、保安距離、空地等)を行い、安全な場所で行うべきである。

 

 

具体的には、

1)事故例を参考にしていない。20年間に11件の事故報告があった。

2)行き止まり配管の怖さについて十分認識されていなかった。

3)爆発危険性、爆発威力について十分な検討がなされていない。

以上のことから、ヒドロキシルアミンの危険性を軽く見た経営判断のミスであろう。

 

 

//// ここまでは、失敗知識データベースから省略・加筆して転載した。

 

ヒドロキシルアミンは、ナイロンの原料として使われている。しかし、鉄イオンの少ない本品は、半導体産業で使われており、IT産業の発展、フロン代替で、急激に需要が増加した。日進化工株式会社・尾島工場でも、事故で工場が吹き飛ぶまでフル稼働の状態だったらしい。

 

ヒドロキシルアミンは、加熱すると容易に爆発する。また、呼吸器、皮膚、目、そして他の粘膜を刺激する。皮膚から吸収される可能性があり、飲み込んだ場合も有害である。と、いうよりも、大量に吸入した場合は、血液の酸素吸収力低下により、死に至ることもある。

また、消防法では第5類の危険物に分類されている。第5類危険物とは、「自己反応性物質」であり、分子中に酸素を含有し、自己燃焼しやすい固体または液体の物質である。自分自身が酸素を持つため、窒息消火は不可能、ほとんどの場合爆発的に燃焼する。上記事故でも、おそらく一瞬のことだったと思う。第5類の危険物は、本当に取り扱いずらいし、正直怖い。

 

危険な物質ではあるが、様々な産業で有効に使用されている。

上記事故の後、中央災害防止協会から「ヒドロキシルアミンに係る爆発災害等の防止について」というお達しが出ている。ただし、事故の丁度1年後。