takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

医薬中間体ろ過工程で静電気帯電による工場の火災

1985年(昭和60年)03月15日、山口県 新南陽市の化学工場で静電気帯電による火災が発生した。医薬品中間体の製造で固体をn-へキサンからろ過分離後、ろ過器から取り出し中に火災が発生した。ろ過品中のn-へキサンの蒸発とろ布の静電気帯電が原因である。ろ過後の固体には、必ず液体成分が残ることを意識していないことが要因と思われる。

経過

1. 医薬中間体の反応を終了し、ろ過器でろ過を終了した。

2. ろ過器から乾燥機へ移し換えを始めた。移し換えはろ過器下部にポリプロピレン製のシューターを取り付け重力で乾燥機に落下させる。このときシューターに製品がつまらない様に手で叩いている。

3. 移し変え作業が終了し、ろ過器に残った製品を掻き出している時に突然シューター内で火災が発生した。

原因1.移し換え品にはn-へキサンが20%含まれていた。シューター付近は可燃性混合気を形成していた。

2.グラスライニング製のろ過器からポリエチレン製のろ布とろ布押さえを引出した時に、ろ布に帯電し、ろ過器の金属部に放電した。

知識化

1.導電性のない物質で試料を取扱うと静電気が帯電する。ごく当然のことだが、忘れられることが多い。

2.ろ過後の固体ではドライには絶対ならない。数十%の液が残っている。液が揮発性なら雰囲気が爆発範囲になっても不思議はない。

背景

1.静電気帯電に対しまったく関心がなかった。ポリプロピレンが非導電性で帯電することの意識がなかったと思われる。

2.n-へキサン蒸気の存在を意識しなかった。

 ろ過器で残った固体には液成分が、必ず残り、軽質油ならそれが蒸発して空気と混合する。少し気を付けていれば、臭気で分かるが、事故がなかったことに安心して、安全意識が低下した可能性がある。

 

//// ここまでは、失敗知識データベースから省略・加筆して転載した。

 

上記の事故は大きな事故ではない、自社内の自衛消防隊だけで消火作業は終了している。ただ、空気が乾燥している時期はどこでも起こりうる火災事故のため、ここでも転載した。私の工場でも火災には成らなかったが、静電気による火花で瞬間的に大きな炎が発生したことがある。工場の中には、可燃物となる第3・4石油類は大量にある(と言っても規模は小さいから10Kリットルぐらい)。また、チタンやアルミの粉末も100キロ程度は存在する。そのため、普段から静電気には注意している。それでも、一寸した油断・不注意で火花は発生する。引火点・発火点の低い危険物を扱う時は一層の注意が必要である。

ちなみに、床に2×2=4平方メートル程度灯油をまいて(2リットル)火をつけても、消火器1本で消火できる(実験した)。しかし、壁や天井に達した炎はそう簡単には消えない(ビデオで観た)。また、消火器の液・粉末は炎ではなく、燃えている火元に噴射しないと効果がでない。本当の火事の時は、慌てることになるから一度か二度は訓練で使ってみた方が良い。