takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

広島新交通システムの橋桁落下

事例概要

平成3年3月14日14:05頃に、広島市高架式軌道「新交通システム」工事現場において、長さ63.4m、重さ60トンの鋼製箱桁が、10m下の県道に落下して、民間人10人を含む15人が死亡し、8人が重軽傷を負う大惨事となった。

経過

・ ジャッキ受台は、H型鋼を3段同じ方向(通常は井桁状)に積み重ねた。また、H鋼には補剛材がついていなかった。

・ 補強されていない部分が直接ジャッキを受けたため、桁が変形した。

・ 主桁を支えていた3台のジャッキのうち2台のいずれかで支点反力が変化し、その瞬時、いずれかで耐荷力を超えた。

・ 残りの1台も反力を支えきれなくなり、2台のジャッキの受台がほぼ同時に倒壊した。

・ 橋桁は橋軸回りに半回転しながら、県道に落下し、信号待ちしていた11台の車両を押しつぶした。

原因

・ ジャッキの仮受台に、H型鋼を3段同じ方向に積み重ねて使用した。(致命的原因)

・ 集中荷重が作用する部材箇所に、剪断補強リブを配置していなかった。剪断補強リブを配置していない箇所に、ジャッキをあてがった。

・ 横取り時は、桁の転落防止用のワイヤを設置していたが、降下作業時はこの対策を取っていなかった。

・ 元請会社の施工管理体制の問題が根本要因であった。

背景

この事故の背後には、杜撰な安全管理が問題視されている。

・ まず、下請会社の選定や指導が杜撰だった。一次下請会社は、橋本体の架設工事で契約したことがなく、本件工事に携わった社員は、半分近くが20年以上の作業経験があるベテランだったが、橋の架設工事の経験はほとんどなかったのに、元請会社の事前指導もなかった。

・ 施工管理体制の問題点として、橋脚上では元請会社の社員はだれも監督せず、全体の監督者として務めたのは、一次下請の事務系社員であった。また、元請会社が作成した施工計画書では、作業に対して十分な検討が行われず、横取降下工法について添付図面中の「架設要領」において「3(d)横取り」と記載されているのみであった。

・ 本件事故の5台のジャッキ架台のうち、4台を設置した二次下請会社の作業員は、30年を超えるとび職の経験はあったが、高所での架台の組み方については全く作業経験がなかった。

・ この工事は、平成3年2月20日に開始されたが、3月1日までは作業に従事する予定のとび職人が遅れてきたり、全く来なかったりする日が続き、作業は遅れがちであった。3月2日以降、作業員人数はほぼ一定したが、高所作業経験のない作業員が多かった。他の現場では、作業開始前の朝礼で、その日の作業内容を説明したり、KY活動を通じて危険予知のための留意点を確認したりしたが、この現場では、3月13日横取作業の直前に作業内容の説明等が行われた他、危険予知活動はなく、朝礼は一度も行われなかった。

後日談

現場付近の道路が一日に車両15,000台程度の交通量があったため、全面通行止めはせず工事をしていたが、事後後工法変更を行い、迂回路を設け架設地点(県道)を全面通行止めにして、両側よりベントを設けトラッククレーンで直接架設した。

・ 事故の犠牲者の遺族らが求めた損害賠償請求訴訟において、広島地裁は98年3月24日、元請会社、一次下請会社及び本件工事の発注者である広島市の過失責任を認め、損害賠償を命じた。本件判決において、広島地裁は広島市の予見可能性及び注意義務を肯定し、注意義務違反による損害賠償責任を認めた。

・ 一方、刑事訴訟では、元請会社の現場代理人には禁固2年6ヶ月実刑判決、橋梁工事部長及び現場代理人補佐に対してはそれぞれ禁固2年執行猶予3年と禁固2年6ヶ月執行猶予4年が言い渡された。

・ 元請会社には、行政処分として指名停止、営業停止など厳しいペナルティーが科された。

 

//// ここまでは、失敗知識データベースから省略・加筆して転載した。

 

「全体の監督者として務めたのは、一次下請の事務系社員であった」と言うのは、いくらなんでもひど過ぎる。さらに、「危険予知活動はなく、朝礼は一度も行われなかった」では、事故は起きるべくして発生したと言って良い。信号待ちで停車していた車に乗っていた人達は、杜撰な工事の犠牲になった訳である、ご冥福を祈る。

街を歩くとき、建築現場でも、窓拭きや電線工事でも高所の作業を見かけることは良くある。私は、基本的にそのような場所は避けて通ることにしている。そのような高所作業で上から物が落ちてきたり、作業車両が倒れたりするのは、それほど珍しいことではないからだ。特に、電信柱の上で作業を行っている時は要注意である。警備員は作業者周辺だけでなく、上の作業員にも注意しなければならないが両方に注意を払っている警備員はあまりいない。

ブームが伸びている作業車両の近くは歩かないこと。