takumi296's diary

技術士・匠習作の考へるヒント

四フッ化エチレン精製設備の爆発

2004年(平成16年)1月13日、四フッ化エチレン(フッ素樹脂の原料ガス)の製造工場で、爆発・火災の事故が発生した。

発生した場所は、ダイキン工業鹿島工場(茨城県鹿島郡波崎町)である。

工場が所在する地区では、前日に停電(2004年1月12日15時45分~16時21分まで停電)が発生していた。そのため、当該プラントは緊急運転停止を行い、復電した後に、四フッ化エチレン精製設備のスタートアップ作業を開始した(この件が、引き金になったかどうかは、不明)。

作業手順書に従って順調に作業が進められていた矢先、2本の精留塔を連結しているキャンド型ポンプ付近が爆発・出火した。その後、高さ約32mの精留塔と高さ約19mの精留塔が大爆発を起こし、架構と共に大破した。破損した機器の破片は半径500m以上に飛散、同時に強い爆風が発生した。これにより、周辺の設備、建物にも大きな損傷をもたらした。

大規模な爆発事故にもかかわらず、事故発生当時、四フッ化エチレン精製設備内には作業者がいなかったため人的被害は少なかった。4名(重傷1名、軽傷3名)の被災者はいずれも当該設備の周辺において飛んできた破片やガラスによって負傷している。 

2本の精留塔の破損物や配管部品、計器などは工場内にとどまらず、半径500m以上の周辺の隣接企業にまで飛散した。大きなものでは、約200kgの精留塔の破片が爆心地から約400mの地点に飛散していた。このため、工場内では、ほぼ全ての設備が何らかの被害を受けており、特に発災設備近傍の機器、配管、電気設備は飛散物の直撃により大きな被害を受けていた。

爆発の原因は、2本の精留塔を連結しているポンプの冷却不足により、ポンプ内で気化した四フッ化エチレンが最小着火温度を超えて自己分解反応(小爆発)を起こし、ポンプの吸入配管の一部が破損するとともに四フッ化エチレンが漏洩して着火し、1回目の爆発に至ったと推定された。

また、ポンプ冷却不足の原因は、ポンプ冷却配管のフランジガスケットに四フッ化エチレンの重合物(PTFE、ポリテトラフルオロエチレン)が生成したことによって、冷却配管が閉塞状態となったためと推定されている。

さらに、重合物が生成した原因は、重合防止剤の注入ポンプの不調に加えて、重合防止剤の注入量を常時監視するシステムになっていなかった。そのため、重合防止剤の注入不足を認識できなかった。結果として重合物が生成し、ポンプ冷却配管が閉塞した。重合防止剤の注入ポンプは、以前からしばしば不調となっていたにもかかわらず、その原因を特定せず、不具合の都度、部品取替などの修理で対処していた。このポンプは発災当時も性能が低下していたことが確認されており、そもそもポンプに対する重要度の認識が不充分であった。

小さな予兆は頻繁に発生していたにも拘わらず、注意を怠ったことによる災害の典型であると言って良い、ハインリッヒの法則そのものである。

ダイキン工業では、他の事業所で2002年と2003年に発生した労働災害事故を受けて2003年6月にトップ自ら「非常事態宣言」を出し、全社を挙げて事故の再発防止に取り組んでいた矢先、この爆発事故が発生した。この事故の後も2004年6月と8月に同社他事業所が連続して爆発事故を起こしている。このため、2004年8月に安全・安定強化策を打ち出し、さらなる事故防止を図っていたところであったが、2004年9月に入って再び茨城県下の当該事業所で高圧ガスの漏洩事故が発生している。